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「黒い雨」控訴 明言せず 首相 市長・知事「政治判断を」

 原爆投下後に降った「黒い雨」に国の援護対象区域外で遭い、健康被害を訴える広島県内の原告全84人への被爆者健康手帳の交付を広島市と県に命じた7月29日の広島地裁判決で、松井一実市長と湯崎英彦知事は6日、控訴せず、援護対象区域の拡大を含めた被害者救済へ政治判断するよう加藤勝信厚生労働相(岡山5区)に要請した。安倍晋三首相(山口4区)は控訴するかどうか明言を避けた。

 松井市長によると平和記念式典の終了後、湯崎知事と共に中区で加藤厚労相に会った。区域外で黒い雨を浴びて病気になったと「科学的合理的根拠」をもって証明するのは今や困難などと主張。被害者に寄り添い、援護対象区域の拡大などを通じた救済を求めた。

 これに対して加藤厚労相は、税金を使う被爆者援護行政では合理性や公平性の視点で判決を検証する必要があるなどと説明したという。松井市長は「援護に向けた政治判断をぜひお願いしたいと申し上げた。しっかりと協議しようという返事だった」と述べた。

 手帳の交付は国の施策だが、市と県は法定受託事務として実務を担う。国が控訴を求めた場合に、市の判断で控訴を見送る可能性について、松井市長は「そこが問題で悩んでいる。被害者の救済が最終目的。区域の拡大が見通せるかどうか見極めたい」と話した。

 加藤厚労相は面会後、南区で取材に応じ「地元の皆さんの思いを受け止め、共有したい。ただ、判決の中身について議論しており、12日の控訴期限に向けて結論を出したい」と語った。安倍首相は中区での記者会見で「関係省庁、県、市で協議している。これを踏まえて対応を検討する」と述べた。(岡田浩平)

(2020年8月7日朝刊掲載)

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