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救済の道 なお途上 被爆者、国の姿勢問う

 安倍晋三首相が出席する広島市主催の「被爆者代表から要望を聞く会」が6日、中区のホテルであった。二つの広島県被団協など6団体の代表は「黒い雨」の援護対象区域の拡大や核兵器禁止条約の署名・批准を訴えたが、被爆75年の節目にも政府側から前向きな回答はなかった。(下久保聖司、和多正憲、松本真由子)

 「黒い雨」を巡っては、援護対象区域外で雨に遭い、健康被害を訴える県内の原告84人全員を被爆者と認めた7月の広島地裁判決を受け、安倍首相の発言が注目された。被爆者団体は、区域拡大や、広島県・市による控訴断念を国が容認するよう求めた。

 対して口を開いたのは政治決断を担う安倍首相ではなく、加藤勝信厚生労働相だった。被爆者援護について「放射線と健康被害に関する科学的知見に基づいてやってきた」と従来方針の説明に終始。区域拡大には言及しなかった。地裁判決に関しても「真摯(しんし)に受け止め、県、市、関係省庁とよく協議し対応を決めたい」と述べるにとどめた。

 「私たちに希望を」「核保有国に同調しないでほしい」と、被爆者団体の代表者たちは核兵器禁止条約の署名・批准を訴えた。安倍首相は締めくくりのあいさつで「アプローチは異なるが、目指す核廃絶のゴールはわが国も共有している」と強調。一方で「核軍縮を巡る国家間の立場の隔たりは拡大している」とも述べ、条約参加に否定的な姿勢を崩さなかった。

 新型コロナウイルス対策でテーブル上を透明パネルで仕切った異例の会。原爆症認定基準の見直しや被爆2世への援護、在外被爆者の救済、原発の再稼働反対など出席者の訴えは多岐にわたったが、議論はかみ合わず、約40分で閉じた。

 県被団協(坪井直理事長)の箕牧(みまき)智之理事長代行(78)は、安倍首相自身が会や平和記念式典で「黒い雨」訴訟に触れなかった点を「非常に残念だ」。もう一つの県被団協の佐久間邦彦理事長(75)も「首相は核兵器廃絶へやる気があるのか」と疑問を呈した。

(2020年8月7日朝刊掲載)

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