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被爆者守った善意の「蚊帳」 大竹の谷本さん 投下の夜 野外につる

「助け合いの大切さを」

 広島に原爆が落とされた当日の夜、傷ついた被爆者のため野外につった蚊帳が、21日から原爆資料館(広島市中区)である「新着資料展」で初公開される。寄贈したのは、大竹市の被爆者谷本太さん(90)。「助け合いの大切さを、後世に伝えたい」と願う。(岡田浩平)

 麻で編んだ、借り物の蚊帳は、2畳分の大きさ。日本製鋼所社員だった谷本さんは当時、千田町(中区)の下宿先で使っていた。

 68年前のあの日は非番。6畳間で寝転がっていた。爆風で倒れた下宿から懸命にはい出した。リュックに身の回り品と蚊帳を詰め、平野町(中区)にあった広島文理科大(現広島大)のグラウンドへ向かった。

 けが人があふれていた。「蚊を追い払うのも大変じゃろう」。焼け残った木に蚊帳をつり、お年寄りや女性たち10人ばかりを招き入れた。自分は外で寝ずの番。うめき声は、今も耳に残る。

 翌日、栗谷村(現大竹市)の実家に向けて歩きだした。途中、友和村(現廿日市市)のいとこ宅に立ち寄り、蚊帳を返した。木箱に納められ、再び使われることはなかった。

 昨年11月。いとこの男性(83)と連名で資料館に寄贈した。「蚊帳に招いた人はあの後どうしているだろう」。谷本さんは案じる。

 資料館には2012年度、被爆者や遺族から被爆資料950点が寄せられた。うち衣類や仏像など99点を新着資料展で紹介する。来年6月15日まで。

(2013年6月14日朝刊掲載)

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