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被爆後の日常 生きる強さ写す 県立美術館特別展 広島の6人 切り取った街

 広島県出身の写真家6人の作品を集めた特別展「日常の光 写し出された広島」が、広島市中区の広島県立美術館で開かれている。「日常」を切り口に、被爆直後から現代までの広島の写真がそろう。(福田彩乃)

 作家ごとに計約130点を紹介する。冒頭には、当時中国新聞社のカメラマンだった松重美人(1913~2005年)が、被爆直後の御幸橋一帯や翠町を撮影した5枚が並ぶ。髪の毛は焼け縮れ、服はぼろぼろになり、立ちすくみ、へたりこむ人々。一瞬にして日常を奪われたあの日の広島の記録だ。

 続く明田弘司(1922~2015年)の作品群から、展示の印象はがらりと変わる。水着姿で平和大橋の欄干にまたがる少年、カキいかだの竹材で遊ぶ子どもたち…。終戦から10年前後、明るくたくましい人々の姿が印象的だ。「復興への希望が被写体に託されている」と山下寿水学芸員。「地元の写真家だからこそ撮れる日常の情景」が広がる。

 原爆で家族を失い、自身も被爆の後遺症に苦しんだ高田静雄(1909~63年)は、スポーツに打ち込む学生らにレンズを向けた。元オリンピアンの高田が捉えた若者のトレーニング風景は、体のしなやかさや疾走感をも表現する。自宅周辺の町並みや子どもの姿も数多く残した。

 構図を究め、身近な被写体を叙情的に活写したのは迫幸一(18~2010年)。被爆電車の間で棒にぶら下がった少年を写した「子供の世界」(1953年)は、影になった電車と空のコントラストが際立つ。田園や綿羊市の一場面もあり、当時の広島の人々の暮らしぶりがうかがえる。

 展示の後半を占める笹岡啓子、藤岡亜弥の各連作は、現代の広島を切り取る。笹岡が手掛けるシリーズ「PARK CITY」は、平和記念公園(中区)と周辺を写す。川べりや緑地の何げない光景は、説明がなければ広島だと気付かないかもしれない。背景の一部のような原爆ドームなどが、薄れていく被爆の記憶を表すかのようだ。ぼんやりとした人影は、かつてそこにいた人の存在を想起させる。

 平和記念公園を中心に市中心部を撮った藤岡の連作「川はゆく」はスナップ風で、ひと休みする外国人観光客や公園内を歩く児童の列を捉える。ヒロシマという過去と同居しつつ、日々を生きていく人たちの姿が浮かび上がる。

 新型コロナウイルスの影響で、広島県立美術館が来年に延期した特別展「藤子不二雄Ⓐ展―Ⓐの変コレクション」に代わり、企画した。23日まで。(敬称略)

(2020年8月8日朝刊掲載)

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