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「拡大も視野」で温度差 「黒い雨」訴訟控訴 広島市・県 早期の対応求める 厚労相 可否すら明言せず

 広島市の松井一実市長と広島県の湯崎英彦知事、加藤勝信厚生労働相(岡山5区)は12日、それぞれ記者会見に臨み、「黒い雨」を巡る広島地裁判決で控訴に至った経緯を説明した。松井市長と湯崎知事は政府に対して、これまで求めてきた援護対象区域の拡大を早く実現するよう促したが、加藤厚労相は拡大の可否すら明言を避けた。3者が折り合う要因となった「拡大も視野に入れた再検討」を巡る温度差が浮き彫りとなった。(明知隼二、河野揚、畑山尚史)

 「国から『降雨地域の拡大も視野に入れた再検討をする』との方針が示されたことを重く受け止めている」。松井市長は市役所での記者会見で、国が控訴を求める上で示した「条件」をあらためて強調した。

 市は、国が1976年に黒い雨の「大雨地域」を援護対象区域に指定した翌年から、区域の拡大を求めてきた。2008年には県と連携し、約3万7千人を対象に大規模調査を実施。従来の「大雨地域」の約6倍の範囲で雨が降ったとの結果をまとめ、国に拡大を迫ったが実らなかった。

 松井市長は「以前に県、市から出した調査をベースに判断してもらいたい」と区域の拡大をあらためて要望。黒い雨を浴びた体験者が高齢化している現状を踏まえて「本年度中をめどに方向性を出してほしい」と、早期の対応を訴えた。

 同時刻、加藤厚労相は東京・霞が関の厚生労働省で記者会見に臨んでいた。区域の拡大も視野に入れた再検討を表明したものの、拡大の可否は「今の段階で申し上げられない」。時期についても「対象者の高齢化を念頭に、スピード感を持ってやっていく」と言質を取らせなかった。

 再検討では「最新の科学技術を用いて可能な限りの検証をするよう、事務方に指示した」と披露した。具体的には、これまでに蓄積したデータを生かし、人工知能(AI)などを活用するという。

 ただ厚労省は、県と市が08年に実施した独自調査について「科学的、合理的根拠がない」などとして退けた前例がある。今回の再検討でどのようなデータを活用するのかは明示しておらず、区域拡大を巡る議論の行方は見通せない。

 2人から5時間後に県庁で記者会見した湯崎知事は、安倍晋三首相(山口4区)と加藤厚労相がそろって援護対象区域を拡大する可能性に言及した点に着目した。「国と被爆者行政のトップの発言であり、結果として全く拡大しないことは政治的にはあり得ないと思っている」。拡大に後ろ向きとすら映る政府の姿勢に対して、くぎを刺した。

(2020年8月13日朝刊掲載)

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