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社説・コラム

「黒い雨」控訴 3氏一問一答

 原爆投下後に降った「黒い雨」を巡る広島地裁判決について被告の広島市などが控訴した12日、松井一実市長と広島県の湯崎英彦知事、加藤勝信厚生労働相(岡山5区)はそれぞれ記者会見を開き、控訴に至った経緯などを説明した。主なやりとりは次の通り。

原告思うとつらい 松井市長

 広島地裁の判決を受け、国に科学的知見を超えた政治判断を優先し、控訴しないよう求めてきた。国からは降雨地域の拡大も視野に入れた再検討をする方針が示されるとともに、強い控訴要請を受けた。控訴せざるを得ないと判断した。

  ―今回の広島地裁判決をどう捉えていますか。
 実際に雨を浴びたと言っていれば、助けた方がいいという論になっている。これまで政府に求めてきた被害者を救済する政治決断を、判決でかなえてもらったようなものだ。広島の思いを受け止めてもらった。

  ―原告には被爆者健康手帳を受け取れるという期待が広がっていました。原告に対しての思いは。
 控訴しなければ、勝訴した原告には交付されるが、同じ境遇の人たちは別に訴訟を起こす必要があった。全てを救済するには、科学的に因果関係を証明しなければ救済しない今の制度を超えた政治判断が必要だ。

 勝訴した原告を思うと本当につらく、申し訳ない。援護の手を差し伸べる検討の余地があるという加藤厚労相の言葉に期待をつないでいる。結論を出す時間を早く、スピード感をもってやってほしい。

  ―国は科学的知見を強調しています。再検証は本当に救済につながりますか。
 そこは国の判断だ。再検証に向けた厚生労働省の研究班には、市職員を加えてもらうよう要請する。言うべきことは言っていく。被爆者は高齢化しており、本年度中をめどに方向性を出してほしい。(市役所で)

拡大なし あり得ぬ 湯崎知事

 国との協議では、県として控訴しない意思を伝えてきた。一方、今回の判決を受け入れて現行の基準が変わらない場合、被害者の間で不公平が生じてしまう。国から降雨地域の拡大も視野に可能な限りの検証をする方針が示され、控訴せざるを得ないと判断した。

  ―控訴は本意でなかったのではありませんか。
 少しでも早く被害者の救済につなげられれば良かったが、公平性の問題もある。今回は原告84人の救済だが、同様に国の援護対象区域外で黒い雨を浴びたほかの人たちについては全く白紙で、救済されない状況が生まれる。そこがしばらく固定化されかねない。

  ―援護対象区域が、科学的知見で拡大されるとの担保はありますか。
 こういう話に担保はない。ただ被爆者行政のトップである厚労相と、国のトップの首相が「拡大も視野に入れた検討をする」と明確に言った。結果として全く拡大しないということは、政治的にはあり得ないと思っている。

  ―黒い雨は大雨地域の約6倍の範囲で降ったとの推定で、援護対象区域の拡大を要求してきました。今回も同様に求めますか。
 基本的にはこれまでお願いしている範囲の拡大になると思うが、大事なのは実際に黒い雨を浴びたかどうかだ。現実として、実際の降雨量やその中の放射性物質の量は分からない。一定の合理的な範囲内で、放射線に起因すると考えられる疾病のある人の救済を求めていく。(県庁で)

最新科学で再検証 加藤厚労相

 広島地裁判決は十分な科学的知見に基づく内容とはいえない。援護対象区域の設定では県、市などの要請を踏まえて、拡大も視野に入れた再検討をするため、これまで蓄積されてきたデータを最大限活用し、最新の科学技術を用いて可能な限りの検証をするよう、事務方に指示した。

  ―検証はいつごろまでと考えていますか。
 具体的に申し上げられないが、対象の方々の高齢化がかなり進んでいることも念頭に置きながらスピード感を持っていく。まずは研究班を設立し、スケジュールを含めて早急に関係者と調整する。

 原爆投下から75年が経過し、記憶も薄らいでいる。他方、それぞれの段階で集めてきた資料や蓄積してきたデータがある。例えば人工知能(AI)を活用するなどして分析をしていく。

  ―援護対象区域を拡大できると考えていますか。
 可能かどうかは今の段階で申し上げることはできない。しかしながら地元からの強い要望に加え、(拡大に否定的だった)2012年の有識者検討会の報告書から少し時間がたっている。そうしたことを踏まえ、控訴するだけではなく、もう1回、検証の必要があると判断した。

  ―今回の判断は、長崎原爆で国の指定地域外にいた「被爆体験者」の問題への影響を考慮しましたか。
 広島とは事情が異なる。ただ、ここで議論したことが、場合によってはつながってくる。(厚生労働省で)

(2020年8月13日朝刊掲載)

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