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被服支廠保存 割れる立場 広島県所有分 議会与党会派 自民▶1棟/民主▶引き継ぐ/公明▶3棟

 広島県議会(定数64)で湯崎英彦知事の県政運営を支える「知事与党」の3会派が19日の総務委員会で、広島市内に残る最大級の被爆建物「旧陸軍被服支廠(ししょう)」(南区)の存廃を巡る立場を鮮明にした。県所有の3棟について自民議連(33人)は「1棟保存、2棟解体」を主張。民主県政会(14人)は「後世に引き継ぐ」として規模を明示せず、公明党議員団(6人)は「3棟保存」を訴えた。(樋口浩二)

 被服支廠には今年に入り、国政の与野党幹部や閣僚が相次いで視察に訪れている。県議会の3会派は国政の枠組みとは異なる形で連携しており、「来年度予算編成に向けて方向性を出す」とする県の方針決定に向けた政治的な駆け引きが激化しそうだ。

 自民議連の森川家忠氏(竹原市・豊田郡)と緒方直之氏(広島市東区)は、会派として本年度予算編成の際に定めた「1棟保存、2棟解体」の立場に沿って発言した。森川氏は「10万円、20万円で保存できるなら良いが、財源の問題がある。子や孫に多額の借金を残すのはどうか」と提起。緒方氏は「(解体を望む)近隣住民の声もある。地域の声をしっかりくんでほしい」と注文した。

 民主県政会の東保幸氏(安佐北区)は「現地で被爆した人の『無念の死』を後世に引き継ぎたい」と保存の必要性を訴えたが、規模には言及しなかった。終了後の取材に「個人的には3棟保存だが、会派の意見がまだ一致していない」と説明した。

 公明党議員団の田川寿一氏(西区)は被爆の痕跡を刻む建物の価値を重んじ、「3棟保存」を唱えた。「県が保存を決めないと、国の負担など財源の話が進まない」として、「政治判断」を迫った。  被服支廠を巡っては、原爆の日の今月6日に被爆者援護行政を所管する自民党の加藤勝信厚生労働相(岡山5区)が、先立つ5日には公明党の山口那津男代表が現地を視察した。国民民主党の玉木雄一郎代表は2月に訪れている。

 県は昨年12月に「2棟解体、1棟の外観保存」とする安全対策の原案を公表したが、被爆者団体や県議会の意見を受け、本年度の着手を先送りした。県経営企画チームの三島史雄政策監はこの日の総務委で「喫緊の課題である安全対策を検討する中で、来年度予算編成に向けて方向性を出す」と従来通りの答弁をした。

旧陸軍被服支廠(ししょう)
 旧陸軍の軍服や軍靴を製造していた施設。1913年の完成で爆心地の南東2・7キロにある。13棟あった倉庫のうち4棟がL字形に残り、広島県が1~3号棟、国が4号棟を所有する。県は、築100年を超えた建物の劣化が進み、地震による倒壊などで近くの住宅や通行人に危害を及ぼしかねないとして2019年12月、「2棟解体、1棟外観保存」の安全対策の原案を公表。県議会の要望などを受け、20年度の着手は先送りした。4号棟は、所有する国が県の検討を踏まえて方針を決めるとしている。

(2020年8月20日朝刊掲載)

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