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社説・コラム

天風録 『原爆とえんぴつ。』

 この夏、東京都内にある戦災資料館の学芸員から聞いた。敗戦前の東京大空襲について、こう尋ねてきた子どもがいるという。「B29って、どんな鉛筆なの」▲米軍の戦略爆撃機B―29の型番だけ耳に残ったのだろう。教室で握る2Bや3Bの鉛筆と桁違いの数字に、どんな書き味なのかと想像が止まらなくなったのかもしれない。笑い話のようで教訓を含んでいる気もする。鉛筆から子どもが連想したように、手触りのある物に心は動く▲同じ都内の国立市で8年前から、メッセージ展「原爆とえんぴつ。」が夏に開かれている。鉛筆を手に、8月6日と9日を忘れぬための1行コピーを考えようとの公募展である。市独自で被爆体験の伝承者育成に取り組む土地柄もあるのだろう▲公募展の題名は「原爆と正反対の、身近にある物って何だろう」と考えた末、浮かんだと聞く。「昭和の歌姫」美空ひばりさんが平和を願い、歌い続けた曲を思い出す。〈一本の鉛筆があれば/八月六日の朝と書く〉▲広島市の原爆資料館でも、身近な遺品の前で人々の足が止まる。炭と化した弁当箱や熱線を浴びた三輪車…。罪なき命を奪った戦争のどす黒さは「29B」どころでない。

(2020年8月27日朝刊掲載)

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