×

ニュース

島根原発 「安全審査申請急ぐ」 新基準で中電 住民は安全懸念

 原子力規制委員会が原発の新規制基準を正式決定した19日、中国電力は島根原子力発電所(松江市鹿島町)の稼働に向けた安全審査の申請を急ぐ構えを示した。ただ、地元住民には安全への懸念が根強く、事故時の避難方法も確立しないなど行政の課題も残る。(樋口浩二、山瀬隆弘)

 中電は「基準に対応する安全対策を早く確実に実施する」とコメントした。島根2、3号機で審査の申請準備を進め、年度内にも申請する方針。事故時に原子炉格納容器の圧力を下げるフィルター付きベント設備の詳細設計などの策定を急ぐ。苅田知英社長は「速やかな申請が事業者の務め」とする。

 中電は安全対策工事に1千億円以上を投じる。1、2号機近くの海岸では、海抜15メートルの高さの防波壁の建設が進む。2、3号機の対策はベント設備と事故時の拠点となる免震重要棟を除いて年度内に完了。来年度とするベント設備と重要棟の完成も前倒しを目指す。

 「対策が進んでも災害は誰にも予測できん」。原発から2キロの場所に住む主婦森脇良子さん(75)は漏らす。「福島の避難者をテレビで見るたび、子や孫の世代のためにも原発を動かしちゃあいけんと思う」と続ける。

 ほぼ完成した段階の3号機は、審査に合格しても半年程度の試運転が必要になる。鹿島町の農業中村栄治さん(77)は「1、2号機の交付金をもらっても産業は興らず、事故の危険は残った。3号機でまた過ちを繰り返すのか」と強調。稼働に必要な地元同意を島根県と松江市に出さないよう求める。

 住民の不安が根強い中、手続きが進めば、自治体の対応も焦点となる。島根県の溝口善兵衛知事は「国がエネルギー政策の大枠を示してからの判断」と慎重姿勢を崩していない。

 原発30キロ圏に住む島根、鳥取両県の約47万人の安全確保にも不安が残る。島根県防災部の大国羊一部長は「事故の際、何を使ってどう逃がすのか。一番の課題だ」と指摘。自力で逃げるのが難しい入院患者たち要援護者も約3万5千人いる。

 出雲市に3月、放射線被曝(ひばく)を防ぐために服用する安定ヨウ素剤19万8千錠が県から届いたが、国の使用基準が不明瞭で倉庫にしまったまま。「国は丁寧に防災の仕組みを決め、地方に知らせるべきだ」。同市の森山靖夫防災安全管理監は訴える。

<島根原発の主な新規制基準への対応>

                      1号機          2号機         3号機
                   出力46万キロワット 出力82万キロワット 出力137.3万キロワット
                   1974年3月稼働    89年2月稼働     建設中
フィルター付きベント設備     対応未定       2014年度完成   14年度完成
防波壁のかさ上げ       13年度上期完成   13年度上期完成    完成済み
難燃性電源ケーブルの使用   一部に使用       全面使用       全面使用
免震重要棟             14年度完成     14年度完成     14年度完成

(2013年6月20日朝刊掲載)

年別アーカイブ