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[安倍長期政権の功罪] 核廃絶へ 遠い「橋渡し」 禁止条約に背 被爆者失望

 「核兵器廃絶は、私の信念」―。辞任を表明した28日の記者会見でそう強調した安倍晋三首相。広島県被団協(坪井直理事長)の箕牧(みまき)智之理事長代行(78)は、テレビに映るその姿に厳しい視線を向けた。「言うばかりで、やってはくれんかった。行動で示してほしかった」

 2012年12月に発足した第2次安倍政権の約7年8カ月間。被爆地や核兵器の非人道性への国際的な関心は高まり、被爆国の政府が果たす核軍縮の役割が大きく問われた。しかし米国に「核の傘」を求めながらの非核外交は、一日も早い廃絶を訴える被爆者たちの願いと常に相反した。

 首相が政治的遺産(レガシー)の一つに挙げたオバマ前米大統領の広島訪問は、16年5月に実現した。原爆投下国の現職大統領として初めて被爆地を訪問。原爆慰霊碑の前で「核を保有している国々は核兵器なき世界を追求する勇気を持たなければならない」と訴えたオバマ氏の言葉に、核軍縮進展への期待が広がった。

「抑止力弱体化」

 広島訪問の後、オバマ政権は安全保障政策での核の役割を減らす「核の先制不使用」を検討。しかし、安倍首相が「抑止力が弱体化する」として反対の意向を米軍側に伝えたと同年8月に米紙が報じた。被爆者団体などは「核の傘に固執し、核軍縮の障壁になっている」と政府に抗議した。

 政府は、17年3月に核兵器を持たない国の主導で始まった核兵器禁止条約の交渉にも、制定に反発する保有国に同調して参加しなかった。前文に「被爆者」と記され、使用、保有など核兵器を全面的に禁じる条約は、122カ国・地域の賛成で採択。多くの被爆者の悲願だったが、政府は署名・批准しないとすぐに明言した。

 「北朝鮮の核の脅威がある中、(米国の核)抑止力を維持して国民の命を守り抜く責任がある」(首相の国会答弁)として核兵器を「必要悪」と捉えるかのように説き、「絶対悪」として速やかな廃絶を目指す禁止条約に否定的な立場を鮮明にしている。

姿勢なお否定的

 政府は、「橋渡し役」を務めることで核軍縮を進展させるとするが、被爆者団体などが求めているのは、被爆国として自ら禁止条約を批准し、今は反発する保有国にも参加を働き掛ける「橋渡し」だ。広島の被爆者7団体は今年の8月6日の政府要望の席でも首相に直接批准を要望したものの、否定的な姿勢を崩さなかった。もう一つの県被団協の佐久間邦彦理事長(75)は「話は聞いても受け入れない。何のために広島に来ているのか」といらだちを隠さない。

 非政府組織(NGO)「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN(アイキャン))の川崎哲(あきら)・国際運営委員(51)は「米国の核抑止力への依存を優先し、橋渡しも大した成果がなく安倍政権は幕を閉じる」と総括する。日本が背を向ける禁止条約の批准国は44カ国に達し、発効まで残り6カ国。発効すれば開かれる締約国会議に、政府がオブザーバーとしてでも参加することが、求められる「橋渡し」への第一歩とみる。(水川恭輔)

(2020年8月31日朝刊掲載)

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