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[備後の戦後75年] 被爆者の思い 世界の若者へ 福山で風化防ぐ取り組み

証言の英訳や平和学習講座

 「足すことも削ることもなく、ありのままの証言を後世、そして世界に」―。被爆者が高齢化し、直接体験を聞く機会も少なくなる中、盈進中・高(福山市千田町)のヒューマンライツ部の生徒は、被爆者から聞き取った証言の英訳に取り組む。英訳した証言をインターネットで発信し、被爆者の思いを海外の同世代と共有することを目指す。

 2017年、同部が県被団協の坪井直理事長から被爆体験や教員時代のエピソードを聞き取り、証言をまとめたことがきっかけだった。昨年の文化祭で、1年半がかりで製作を進めていた英訳冊子を披露した。

 現在は、第2弾として県内の市民グループと共に昨年作った証言集の英訳を進めている。部長の2年酒見知花さん(17)は「声を震わせながら原爆の悲惨さを伝えようとする被爆者に対し、『私たちがバトンを受け継ぐ』と行動で示したい」と語る。

 部員は21人。ことしは新型コロナウイルスの影響で、毎年参加していた広島市の平和記念式典にも出席できなかった。活動が制限される中、1年塩川愛さん(15)は「証言の録音を聞き返し、そのたび思いを強くしている。世界に向けて発信する役割は、コロナがあろうと変わらない」と強調する。ノートや辞書を片手に、被爆者の生の声と向き合う。

 「同世代や市民の皆さんに戦争の悲惨さや平和の尊さを考えてもらえるよう発信する」。福山空襲から75年となった8月8日、福山高2年黄地菜々恵さん(16)が、福山市内であった慰霊式であいさつした。

 この春まで、福山空襲について「日付くらいしか知らなかった」という。市が開講する平和学習連続講座「ふくやまピース・ラボ」に本年度参加し、福山空襲を体験した女性の話を聞くなどして、追悼の言葉をつむいだ。

 市のピース・ラボは、戦後70年を迎えた15年度、記憶の風化を防ぐために若者を対象に始まった。これまでに延べ約100人が受講。戦争の実態や戦時下の暮らしを学び、平和への思いを朗読劇やインターネットで発信してきた。

 本年度の受講生17人は11月8日、市内の戦争遺跡を歩いて巡る「ピースウォーク」の案内人となる。爆風にさられて変色した福山城の石垣や防空壕(ごう)跡などを2時間かけて巡る。黄地さんは「普段見ている風景の中に戦争の痕跡があることを私たちの世代は知らない。学んだことを自分の言葉で伝えていきたい」と力を込める。(川村正治、滝尾明日香)

(2020年9月30日朝刊掲載)

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