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命の尊さ 実践通じ考える 広島の本覚寺「仏教塾」 親子で太陽光発電機作り

 日蓮宗本覚寺(広島市中区十日市町1丁目)で毎月、開かれている「広島仏教塾」が変わろうとしている。講話に加え、「命の尊さ」をテーマに、環境や平和など暮らしに根差した実践的な取り組みにも力を入れる。きっかけは、塾長で同寺副住職の渡部公友(こうゆう)さん(42)の東日本大震災被災地でのボランティア体験だ。(伊東雅之)

 荘厳さが漂う本堂で、親子連れが真剣にニッパーやドライバーを握る。今月初め、広島仏教塾が開いた50ワットのミニ太陽光発電機作りの集い。全国で製作を指導しているエコグループメンバーを招き、初の実践的な講習会だ。「本堂を作業場にしたのは、寺をより身近に感じてもらうため」。こう話す渡部さんも、作務衣(さむえ)姿で作業に加わる。

原発肯定できず

 渡部さんが、太陽光発電に関心を持ったのは2年前。東日本大震災から1カ月後、ボランティア活動のために訪れた被災地で、人々の苦しみや悲しみに接しながら、エネルギーについても強く考えさせられたからだ。

 「僧侶として、困難に直面している人たちに何かできないか」と、渡部さんが向かったのは福島県南相馬市。津波の被害に加え、東京電力福島第1原発事故による放射能被害にも苦しむ地域。「自分たちの暮らしに欠かせない電気。だが、その電気を作る施設が人々を苦しめている…」。仏教が最も尊ばなければならない命について考えると、目の前で住民の命を脅かしている原発は肯定できなかった。「太陽光発電など地球に優しい方法にもっと目を向けるべきではないか」。月1回、自坊で開いている仏教塾でも、そんな思いを交えて現地の報告をした。

 同仏教塾は「身近なテーマで仏教を語り合い、生き方を見つめ直す場に」と2002年、渡部さんが塾長となって設立。少子高齢化や不登校、いじめ、テロなど社会問題を中心に、講話や討論を通して参加者と考えてきた。

 「当初の仏教は、今を生きる人にも寄り添う教えだったはず」。設立は、葬儀や法要だけではない、本来の仏教に立ち返る試みでもあった。だが、その塾もこれまで、参加者との話の場に終わっていた。そんな折、ボランティア活動に参加したのを機に、太陽光発電に関心を持った渡部さんが、インターネットでエコグループの活動を知り、今回の実践につながった。

平和考える場も

 「太陽光発電機の製作は、実践編の核として今後も続けながら、他分野にも広げたい」と渡部さん。爆心地近くの被爆寺院として平和を考えるフィールドワークなども盛り込む考えだ。

 「個々の取り組みは小さくても、言葉だけで伝わらない喜びや悲しみの実体験を通し、人の輪が広がれば」。そんな思いを胸に、新たな仏教塾のかじ取り役として自らも技術や知識の習得に挑む。

(2013年6月24日朝刊掲載)

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