平和大通り にぎわい施設 賛否 「魅力アップ」「慰霊の場」
20年10月13日
広島市が市中心部の平和大通りの緑地帯にカフェなどを誘致するにぎわいづくり構想に、市民から議論が湧き起こっている。都市の魅力アップの観点から整備を望む声が上がる一方、原爆犠牲者の追悼碑や被爆樹木が点在していることから慰霊の場を損なわないでほしいという意見もある。市には狙いや事業内容について丁寧な説明が求められる。(新山創)
市の構想を踏まえ今月3日、市民団体が現地で平和大通りの歴史や慰霊碑を知る催しを開いた。約50人が被爆樹木や原爆で301人が犠牲になった広島県立広島第一高等女学校(現皆実高)の追悼碑などを見学。全国の被爆者団体が贈った樹木が立つ「被爆者の森」も巡った。
「慰霊碑があり、被爆の歴史に関わる緑も多いすてきな場所を後世に残したい」。広島市安佐北区の保育士大塚希さん(37)は、催しに参加した感想をこう述べた。主催団体世話人の金子哲夫・県原水禁代表委員(72)は「にぎわい優先で祈りの場が損なわれないか。まずは大通りと市の構想に関心を持ってほしい」と狙いを明かす。
PFIを導入
構想では、大通りを平和への思いを共有するゾーンと位置付けつつ、中区にある緑地帯にカフェなどを誘致して人が集い憩うスポットとしたい考え。現在は市道として扱っている緑地帯の大半を公園にも指定し、民間資金やノウハウを生かす「パークPFI」制度を導入して店舗を誘致する。2020年度内に基本計画をまとめ、21年度に参入事業者を公募する構えだ。
背景には、都心にある大通りが、ひろしまフラワーフェスティバル(5月3~5日)やひろしまドリミネーション(11月~翌年1月)を除き、十分に活用されていないとの問題意識がある。
地元経済界も利活用を求めている。広島商工会議所は16年と17年、大通りの魅力拡充を市に提言。17年は「誰もが楽しみながら歩き、憩い、交流でき、活用される空間」としての再整備を挙げた。今年2月には商店街、飲食店、ホテルの業界団体などでつくる協議会が、平和文化を体験できる「回廊」としての活用、パークPFIの導入を市に提言した。
協議会のメンバーで、大通りと隣接する並木通り商店街振興組合(中区)の石丸良道事務局長(69)は「今は単なる通過点。平和を願う碑などを後世に伝えるためにも人が滞在する仕掛けがほしい」と強調する。
碑や灯籠40基
平和大通りの一帯は太平洋戦争末期、米軍の空襲による延焼を防ぐ防火帯を造るための「建物疎開」で多くの家屋が壊された。原爆が投下された日、片付けに動員された多くの学徒が犠牲となった。今も中区の緑地帯だけでも40基の慰霊碑や記念碑、石灯籠がある。
こうした事情を踏まえ、被爆者団体や平和団体からは懸念の声が上がる。広島県被団協(坪井直理事長)の箕牧(みまき)智之理事長代行(78)は市の聞き取りに「賛成しなかった。静かに祈る場に過剰なにぎわいは要らない。しっかりと協議を」とくぎを刺す。もう一つの県被団協(佐久間邦彦理事長)は8月、市の意見募集に「毎年、追悼式がある慰霊の場。市内には既に多くのにぎわい空間があり、これ以上必要なのか」と構想撤回を求めた。
市の椎木明史・観光企画担当課長は「平和の思いを共有しながら、平和であるからこそ楽しめるにぎわいをつくりたい」と強調。慰霊碑は動かさず、供木も残すと明言する。パークPFIの制度で公園部分の12%までと定める店舗の建築面積も2%に制限するなどして「平和発信に重きを置く方向性は同じ」と理解を求めている。
原爆で壊滅した広島の戦後復興の象徴の一つである平和大通り。パークPFIの導入により、大通りの姿が変わる転換点となる可能性がある。市は幅広い意見を聴くとともに、導入ありきではなく、具体的な未来像を示す必要がある。
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<平和大通りを巡る動き>
1951年 11月 市民公募で平和大通りの通称が決まる
57年 2月 市が緑地帯の整備のため広く樹木の提供を呼び掛ける
65年 5月 平和大通り約3.8キロが全通
2002年 11月 おとぎの国をテーマにした「ひろしまドリミネーショ
ン」開始
04年 9月 広島商工会議所が平和大通りを含む都心活性化の提言を
まとめる
16年 10月 広島商議所が平和大通りの魅力拡充を市に提言
11月 市を含む官民の「平和大通りにぎわいづくり検討会議」
が3年間の活動を始め、オープンカフェやアート展を企
画
17年 10月 広島商議所が平和大通りのさらなる魅力拡充を市に提言
19年 2月 松井一実市長が市議会の質問で平和大通りへのパークP
FI導入の検討を表明
20年 2月 周辺の商店街などでつくる「平和大通りのにぎわいづく
りに向けた検討協議会」がパークPFIによるにぎわい
施設の設置などを市に提言
7月 市がパークPFI導入などにぎわいづくりへの意見募集
を開始
8月 広島県被団協(佐久間邦彦理事長)が、市の平和大通り
でのにぎわいづくり計画の撤回を求める意見を提出
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パークPFIと平和大通りのにぎわい構想
パークPFIは、公募で選ばれた民間事業者が都市公園にカフェや売店などの収益施設を設け、売り上げの一部を植栽など公園整備に還元する制度。2017年の改正都市公園法で制度化された。広島市の平和大通りは現在、緑地帯を含めて市道の扱いのため、常設の飲食施設は営業できない。市は緑大橋から鶴見橋までの約2.5キロにわたる中区内の緑地帯約5.7ヘクタールの大半を公園にも指定し、収益施設を置く構想を描く。店舗数や利用面積は決まっていない。緑地帯には1041本ある樹木のうち、1950年代の供木運動で集まったとみられる木が275本残っている。
(2020年10月13日朝刊掲載)
市の構想を踏まえ今月3日、市民団体が現地で平和大通りの歴史や慰霊碑を知る催しを開いた。約50人が被爆樹木や原爆で301人が犠牲になった広島県立広島第一高等女学校(現皆実高)の追悼碑などを見学。全国の被爆者団体が贈った樹木が立つ「被爆者の森」も巡った。
「慰霊碑があり、被爆の歴史に関わる緑も多いすてきな場所を後世に残したい」。広島市安佐北区の保育士大塚希さん(37)は、催しに参加した感想をこう述べた。主催団体世話人の金子哲夫・県原水禁代表委員(72)は「にぎわい優先で祈りの場が損なわれないか。まずは大通りと市の構想に関心を持ってほしい」と狙いを明かす。
PFIを導入
構想では、大通りを平和への思いを共有するゾーンと位置付けつつ、中区にある緑地帯にカフェなどを誘致して人が集い憩うスポットとしたい考え。現在は市道として扱っている緑地帯の大半を公園にも指定し、民間資金やノウハウを生かす「パークPFI」制度を導入して店舗を誘致する。2020年度内に基本計画をまとめ、21年度に参入事業者を公募する構えだ。
背景には、都心にある大通りが、ひろしまフラワーフェスティバル(5月3~5日)やひろしまドリミネーション(11月~翌年1月)を除き、十分に活用されていないとの問題意識がある。
地元経済界も利活用を求めている。広島商工会議所は16年と17年、大通りの魅力拡充を市に提言。17年は「誰もが楽しみながら歩き、憩い、交流でき、活用される空間」としての再整備を挙げた。今年2月には商店街、飲食店、ホテルの業界団体などでつくる協議会が、平和文化を体験できる「回廊」としての活用、パークPFIの導入を市に提言した。
協議会のメンバーで、大通りと隣接する並木通り商店街振興組合(中区)の石丸良道事務局長(69)は「今は単なる通過点。平和を願う碑などを後世に伝えるためにも人が滞在する仕掛けがほしい」と強調する。
碑や灯籠40基
平和大通りの一帯は太平洋戦争末期、米軍の空襲による延焼を防ぐ防火帯を造るための「建物疎開」で多くの家屋が壊された。原爆が投下された日、片付けに動員された多くの学徒が犠牲となった。今も中区の緑地帯だけでも40基の慰霊碑や記念碑、石灯籠がある。
こうした事情を踏まえ、被爆者団体や平和団体からは懸念の声が上がる。広島県被団協(坪井直理事長)の箕牧(みまき)智之理事長代行(78)は市の聞き取りに「賛成しなかった。静かに祈る場に過剰なにぎわいは要らない。しっかりと協議を」とくぎを刺す。もう一つの県被団協(佐久間邦彦理事長)は8月、市の意見募集に「毎年、追悼式がある慰霊の場。市内には既に多くのにぎわい空間があり、これ以上必要なのか」と構想撤回を求めた。
市の椎木明史・観光企画担当課長は「平和の思いを共有しながら、平和であるからこそ楽しめるにぎわいをつくりたい」と強調。慰霊碑は動かさず、供木も残すと明言する。パークPFIの制度で公園部分の12%までと定める店舗の建築面積も2%に制限するなどして「平和発信に重きを置く方向性は同じ」と理解を求めている。
原爆で壊滅した広島の戦後復興の象徴の一つである平和大通り。パークPFIの導入により、大通りの姿が変わる転換点となる可能性がある。市は幅広い意見を聴くとともに、導入ありきではなく、具体的な未来像を示す必要がある。
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<平和大通りを巡る動き>
1951年 11月 市民公募で平和大通りの通称が決まる
57年 2月 市が緑地帯の整備のため広く樹木の提供を呼び掛ける
65年 5月 平和大通り約3.8キロが全通
2002年 11月 おとぎの国をテーマにした「ひろしまドリミネーショ
ン」開始
04年 9月 広島商工会議所が平和大通りを含む都心活性化の提言を
まとめる
16年 10月 広島商議所が平和大通りの魅力拡充を市に提言
11月 市を含む官民の「平和大通りにぎわいづくり検討会議」
が3年間の活動を始め、オープンカフェやアート展を企
画
17年 10月 広島商議所が平和大通りのさらなる魅力拡充を市に提言
19年 2月 松井一実市長が市議会の質問で平和大通りへのパークP
FI導入の検討を表明
20年 2月 周辺の商店街などでつくる「平和大通りのにぎわいづく
りに向けた検討協議会」がパークPFIによるにぎわい
施設の設置などを市に提言
7月 市がパークPFI導入などにぎわいづくりへの意見募集
を開始
8月 広島県被団協(佐久間邦彦理事長)が、市の平和大通り
でのにぎわいづくり計画の撤回を求める意見を提出
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パークPFIと平和大通りのにぎわい構想
パークPFIは、公募で選ばれた民間事業者が都市公園にカフェや売店などの収益施設を設け、売り上げの一部を植栽など公園整備に還元する制度。2017年の改正都市公園法で制度化された。広島市の平和大通りは現在、緑地帯を含めて市道の扱いのため、常設の飲食施設は営業できない。市は緑大橋から鶴見橋までの約2.5キロにわたる中区内の緑地帯約5.7ヘクタールの大半を公園にも指定し、収益施設を置く構想を描く。店舗数や利用面積は決まっていない。緑地帯には1041本ある樹木のうち、1950年代の供木運動で集まったとみられる木が275本残っている。
(2020年10月13日朝刊掲載)