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社説・コラム

社説 日米間の「思いやり予算」 拙速な交渉合意避けよ

 在日米軍駐留経費を巡り、来年度以降の日本側負担を決める日米両政府の外務・防衛当局による交渉が始まった。日本側の負担割合を定めた特別協定が来年3月に期限を迎えるためだ。

 初回の協議では米側から具体的な要求はなかったものの、トランプ米大統領は就任以来、一貫して同盟国に負担の大幅増を求めている。日米同盟が日本の安全保障の全てではない。理不尽な要求は決して受け入れられない。日本政府は厳然とした態度で交渉に臨んでほしい。

 日米地位協定では在日米軍の維持経費は米側が負担するのが原則となっている。しかし米国は1970年代の対日貿易赤字拡大などを背景に、日本側に負担を要求。78年度から「思いやり予算」として日本が一部を肩代わりするようになった。その範囲は拡大し続け、額も当初の約62億円から近年は2千億円前後に高止まりしている。

 それだけではない。日本は米軍再編経費なども拠出しており、米軍関係費の負担の総額は年約6千億円に上る。日本の負担率はほかの米同盟国と比べても突出して高いとされる。

 中国の覇権主義や北朝鮮の核ミサイル開発などによって東アジアは不安定な状況が続く。だからといって、このまま米国の言いなりになって巨額の拠出を続けるわけにはいくまい。聖域化することなく議論し、精査する必要がある。

 「自国第1主義」を掲げるトランプ氏は現行の日米安保条約について、米側だけが防衛義務を負う「不平等条約」だと批判してきた。来月の大統領選で再選されればさらに強硬に出てくるのは必至だろう。

 ボルトン前大統領補佐官は、現在の4倍余りとなる年間80億ドル(約8400億円)の負担を要求する意向を、昨年日本側に説明したと明かしている。これでは日本の米軍関係費が全体で1兆円を超えることになり、国民の理解は到底得られまい。

 トランプ氏によるビジネスの駆け引きのような要求は、同盟国に不信感を募らせ、信頼関係を壊すばかりである。東アジアの安定にもつながらない。

 昨年から続く米韓交渉では、米国が韓国に昨年の5倍以上の負担を求めたことで、膠着(こうちゃく)状態に陥っている。

 米民主党はこうした姿勢に批判的だ。バイデン氏が大統領になれば方針が変更されるとの見方もあるが、予断を許さない。

 新たな特別協定の締結に向けた交渉の期限は来年度予算案を編成する今年12月だ。通常は5年分の負担額を定めるが、日本政府内には、ひとまず来年度1年間分の負担で暫定的に合意すべきだという意見が出ている。現行協定を1年延長して本格的な交渉を先送りする案もあるようだ。腰を据えて交渉するには現実的な選択肢かもしれない。いずれにしても拙速な合意は避けるべきだ。

 戦後75年をへて国際情勢も変わっている。日本は米国との関係を見直す時に来ているのではないか。経費負担に限らず、沖縄に偏る在日米軍基地の問題や日米地位協定の見直しなど両国関係には課題が山積している。

 今後の交渉をそうした議論を深める機会にせねばならない。日本政府は対米追従を改め、言うべきことは言う対等な同盟関係を築く努力が必要である。

(2020年10月22日朝刊掲載)

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