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社説・コラム

社説 国連75年 多国間主義を守り抜け

 第2次大戦の反省から、世界の平和と安全に向け、国連が発足してからきょうで75年になる。加盟国は当初の51カ国から193カ国に増えた。植民地の独立促進や疾病の撲滅、人道支援活動など、これまでに果たしてきた役割は大きい。

 世界は今、新型コロナウイルスの大流行をはじめ、気候変動や大量破壊兵器の拡散などいくつもの大きな共通課題に直面している。現在ほど国際社会の協調と連携が求められているときはない。国連の重要性はより増しているといえよう。

 9月にあった国連総会では、「多国間主義は選択肢ではなく、必須」とする記念宣言が採択された。多国間主義が揺らぐ現状への危機感の表れにほかなるまい。

 原因となっているのは、協調に背を向ける大国の振る舞いである。その筆頭が「米国第一主義」を掲げるトランプ米大統領だろう。イラン核合意など国際的枠組みを次々とほごにしている。よりによって総会の一般討論演説で国際協調路線を批判し、「あなた方も自国第一にすべきだ」と各国に呼び掛けた。

 さらに新型コロナウイルスを「中国ウイルス」と呼び、「中国に責任を取らせねば」と、中国への攻撃に大半を費やした。

 演説はコロナ禍で事前収録だったが、中国の習近平国家主席もそうした米国の姿勢を予期していたに違いない。「政治問題化し、汚名を着せることに反対する」と強調するなど、両国の応酬は際立っていた。

 問題はこうした大国が、拒否権を持つ安全保障理事会の常任理事国を務めていることだ。グテレス国連事務総長は今春、感染対策のために世界各地の紛争の停戦を呼びかけた。しかし米中対立で、7月に決議を採択するまでに3カ月以上も要した。

 国際協調を軽んじる姿勢はロシアも同じだ。世界保健機関(WHO)などが立ち上げた、コロナワクチンを途上国に供給する国際的枠組みに、米中と同様に加わろうとしない。大国がワクチンを囲い込むような自国第一主義を強めれば、世界全体で感染の封じ込めが遠のくのは目に見えている。協調の舞台である国連を覇権争いの場にしてはなるまい。大国の責任を自覚すべきだ。

 かねて課題とされてきた国連改革も、もはや避けて通れないのではないか。75年前の戦勝国が、世界平和を取り仕切ろうとする安保理の構成に無理が来ているとの指摘もある。歳月を経て必ずしも世界の実勢を反映しているとはいえないからだ。日本はドイツやブラジル、インドなどと国連改革を唱えてきた。しかし拒否権を持つ5常任理事国に阻まれてきた。

 日本は近隣をはじめ他国との連携を深め、多国間主義で国連改革を推し進める必要があろう。覇権を争うのではなく、各国が世界市民の視点で連帯することはできないだろうか。

 グテレス事務総長はきのう、新型コロナ大流行のさなかに迎えた75年に合わせ、談話を発表した。「グローバルな連帯と協力があれば、克服は可能。それこそが国連の存在理由です」と述べていた。

 寛容を実行し、平和と安全のために力を合わせる―。そう誓った国連憲章の原点を、加盟国は守り抜かねばならない。

(2020年10月24日朝刊掲載)

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