×

ニュース

邦画の心技 イランに継承 アミール・ナデリ監督「駆ける少年」 広島で上映

 1985年のフランス・ナント三大陸映画祭でグランプリを受賞した「駆ける少年」でイラン映画の金字塔を打ち立てたアミール・ナデリ監督(67)。過酷な環境をたくましく生き抜く孤児を描いた作品は、新藤兼人監督ら「日本の巨匠の遺伝子を受け継いでいる」と力を込める。上映があった広島市の劇場で、熱く語った。

 「余計なものを描かず、最小限で見る人の心を揺さぶる」。ナデリ監督は、日本映画の魅力をそう語る。「短歌や俳句、日本画にもみられる日本古来の文化。それはイラン人の感性にも通じる」と親近感を示す。

 「駆ける少年」は、木下恵介監督の「二十四の瞳」に駆り立てられ、イラン・イラク戦争のさなか撮影を強行。「原爆の子」「裸の島」にみられる新藤監督の「人や街の描き方」にも刺激されたという。

 カメラワークにも、日本の巨匠の手法が生きる。「エネルギッシュなラストシーンは黒沢明監督、廃船で暮らす少年を映す距離感は小津安二郎監督、子どもを追い掛けて心情を捉える動きは溝口健二監督から学んだ」

 こうしてできた「傑作」は、母国の映画学校で教材として用いられ、後進へと受け継がれている。母国の「教え子」が近く、広島で映画を撮る計画もあると打ち明けた。

 2011年、日本で西島秀俊主演の「CUT」も制作したナデリ監督。往年の名作への愛着を描いた話題作だ。一方で、今の日本の映画界への皮肉ものぞかせる。「イランでは、小説やテレビドラマを映画化するなんてあり得ない。自ら経験したことを観客とシェアしようと、映画づくりは始まるものだ」

 見る側にも注文する。「あふれる情報を安易に取り入れず、目や耳をもっとハングリーにしてほしい。自ら経験する機会を増やせば想像力は磨かれる」。名作を心から楽しむ秘訣(ひけつ)である。(松本大典)

(2013年6月27日朝刊掲載)

年別アーカイブ