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連載・特集

核兵器禁止条約発効へ <上> 核による安保 政府固執

議論で変革促す動きも

 核兵器の開発から使用まで一切を禁止する核兵器禁止条約は、批准が50カ国・地域に達し来年1月22日に発効する。核兵器の「非人道性」に焦点を当てた議論の国際的なうねりが、条約として結実した。被爆者や市民団体は「核兵器廃絶への大きな一歩」と歓迎するが、「唯一の被爆国」を掲げる日本は今なお条約に背を向け続けている。条約をめぐる国内外の課題を探る。

 「わが国のアプローチと異なる」。核兵器禁止条約の発効確実の知らせから一夜明けた26日、加藤勝信官房長官は定例会見であらためて条約への参加を否定した。「段階的な核軍縮」を掲げ、核兵器保有国と非保有国の「橋渡し役」を務めるとする従来の見解をたんたんと繰り返した。

憤りあらわに

 「家族5人を亡くし、大勢が苦しむのを目撃したのが原点。何も考えずに過去の答弁を繰り返す政府のことを考えると、はらわたが煮えくりかえる」。日本被団協の田中熙巳代表委員(88)は同日の会見で憤りを隠さなかった。児玉三智子事務局次長(82)も「被爆者が生きているうちに、完全廃絶の道筋だけでも整えてほしい」と訴えた。早期の廃絶を訴える被爆者と「現実の安全保障」を理由に条約を退ける日本政府。その隔たりは大きい。

 日本は安全保障政策で米国の核戦力による「核の傘」を重視し、禁止条約には一貫して否定的な立場を取る。2017年の条約の交渉会議には参加しなかった。18年に発表した防衛大綱でも米国の核抑止力を「不可欠」などと明記し、核抑止への依存を鮮明にしている。

二面性隠せず

 ただ、その非人道性から核兵器の存在自体を否定するのが禁止条約だ。「核兵器は保有すらあり得ず、頼ることも時代遅れとなる。条約発効で世界の常識はそう変わる。日本が被爆国でありながら米国の核戦力に頼る二面性は、もはや隠しきれない」。長崎大核兵器廃絶研究センターの中村桂子准教授はそう分析する。「国民もその情勢をしっかりと受け止め、政府の考え方を変える行動を起こしていく必要がある」と強調する。

 日本政府のかたくなな姿勢を変えようとする動きは芽生えている。広島の若者を中心につくる「核政策を知りたい広島若者有権者の会」(カクワカ広島)は条約を支持する立場から、地元選出の国会議員たちに核政策への姿勢を問う活動を重ねてきた。19年1月の結成から15人に電話や手紙で依頼し、与野党の7人と個別に面会した。

 「政権を握る自民党の議員でも条約への賛否や考え方は多様と分かってきた。考え方が違うのは当たり前だけど、まずは議論を始めることが大切」と共同代表の会社員田中美穂さん(26)=西区。条約の発効確定を受け、さらに対話を続けていく。「声を上げ続ければ変化を起こすことができるはずだ」。被爆国の批准に向け「橋渡し」を模索している。(明知隼二)

(2020年10月27日朝刊掲載)

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