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社説・コラム

社説 中国共産党の5中総会 政治改革 今こそ進めよ

 国の長期目標を決める中国共産党の重要会議、第19期中央委員会第5回総会(5中総会)がおととい閉幕した。

 輸出頼みの経済からの転換を目指し、巨大人口を背景にした内需主導を鮮明にした。新型コロナウイルス感染のパンデミック(世界的大流行)で各国との貿易が停滞している上、米国との対立も激しさを増している。そんな現状を見て、方向転換が必要だと判断したのだろう。

 懸念されるのは内政だ。習近平党総書記(国家主席)への権力集中が度を超えつつある。強権的な振る舞いが国内外でさらに強まれば、国際社会のリスクを高めかねない。内需底上げによる目標達成のため、そして国際社会との溝を埋めるためにも、政治改革が今こそ求められるのではないか。

 中国は、輸出主導で世界を驚かす成長を遂げた。2010年には国内総生産(GDP)総額で、日本を抜き米国に次ぐ世界第2位の経済大国となった。

 1人当たりのGDPは、1万ドルを超えた。35年までに、さらに「中レベルの先進国」の水準まで引き上げる目標を今回の5中総会で打ち出した。

 課題は山積している。例えば経済的に発展した都市と取り残された農村との所得格差をどう是正していくのか。少子高齢化や人口減少が急速に進む中、国民が安心して物やサービスを買うようになるには、社会保障制度の充実も欠かせまい。

 そのため、政治の自由度も底上げする必要があろう。ところが、今回の5中総会で、習氏による長期支配の流れが強まった。党総書記の後継含みの人事が公表されなかったのだ。

 習氏続投への外堀、内堀は埋まりつつある。既に憲法を改正し、従来は2期10年だった国家主席の任期制限を撤廃した。

 22年に予定される5年に1回の次期党大会で、習氏は不文律によると引退すべき年齢に達する。ところが、中央委の規則を先月変え、党のトップ7人が審議する議題を総書記が決めるなど権限を強化。幹部は総書記の地位を守るように義務付け、批判や異論を事実上封じている。

 さらに習氏は、絶対的な権限を持つ「党主席」を復活させ、自ら就任する方向だ―。そう報じたシンガポール紙もある。かつて毛沢東氏が務め、権力の過度な集中で文化大革命など大混乱を招いたため、1982年に廃止されたポストである。

 毛氏の失敗の教訓から集団指導体制に移行したことを習氏と共産党は忘れたのだろうか。

 異論を許さぬ体制は国内外であつれきを生んでいる。チベットやウイグルでの少数民族弾圧だけではない。香港での高度な自治抑圧は、英国からの返還後50年間は「一国二制度」を守るとした国際的な約束違反だ。

 南シナ海では軍事拠点化を進め、沖縄県・尖閣諸島の周辺海域では公船が出没を繰り返す。大国としての自覚を欠いた振る舞いと言わざるを得ない。日本を含む近隣諸国が軍備増強への警戒感を強め、欧州各国で中国との付き合い方を見直す動きが出てきている。当然だろう。

 国民統制を進めるなど独裁色を強めていけば、社会の閉塞(へいそく)感を高め、国際社会では中国脅威論を一層広げかねない。過度の権限集中を見直し、国際協調へと方向転換すべきだ。

(2020年10月31日朝刊掲載)

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