×

社説・コラム

永田町発 核禁条約 被爆国の対応は

 核兵器禁止条約の批准数が50カ国・地域に達し、来年1月22日に発効する。広島、長崎の被爆者たちが望む「核なき世界」に向けた歴史的な一歩ながら、日本政府は米国の核抑止力にすがり、条約に背を向ける。被爆国はどう振る舞うべきか。広島を地盤とする与野党の国会議員3人に聞いた。(下久保聖司、桑原正敏、河野揚)

寺田稔氏(広島5区)

自民原爆議連代表世話人

自衛力強化 態度転換も

 政府は条約に参加しない理由をいくつか挙げている。米国の「核の傘」に日本が守られているからだとか、核保有国と非保有国の「橋渡し役」として条約にも中立的な立場でいるべきだとか。これは外務省のスタンスに沿ったものだが、自民党の被爆者救済と核兵器廃絶推進議員連盟(通称・原爆議連)は条約は極めて有意義と捉え、批准国・地域は50といわず三桁に乗ってほしいと思っている。

 保有国に核軍縮の努力を求める核拡散防止条約(NPT)と究極のゴールは同じではないか。被爆国なのだから与党の公明党が提唱するように発効後の締約国会議にオブザーバー参加するべきだ。中立的な立場で条約と向き合うことに、米国も目くじらは立てまい。

 自民党国防部会長や防衛政務官の経験者として言えるのは、冷戦時代と異なり核はもはや「使える兵器」ではなくなったということだ。発射すれば第三次大戦になる。中国も北朝鮮も十分に分かっているはずだ。

 条約とセットで考えねばならないのは日本の自衛力強化である。防衛省で検討中の新たなミサイル防衛策が正式決定すれば、政府も条約への態度を変える可能性があるのではないか。

 米大統領選の行方も関係してくる。「核なき世界」を訴えたオバマ氏と同じ民主党のバイデン氏が当選したら、トランプ政権よりは核問題を話しやすくなる。

 原爆議連は年内に広島を訪れ、被爆者の方たちと会う。条約への思いを改めて聞かせていただきたい。

斉藤鉄夫氏(比例中国)

公明副代表

オブザーバーの検討を

 条約発効に必要な50カ国・地域の批准は、私の予想より早かった。世界で核廃絶の機運が高まっている証拠だろう。米国とロシアの中距離核戦力(INF)廃棄条約が昨年失効したことや、米ロの新戦略兵器削減条約(新START)の期限切れが来年2月に迫っていることもあり、核を持たない国々が危機感を一層募らせた結果ではないか。

 公明党は、条約発効後の締約国会議への日本のオブザーバー参加を検討するよう訴えている。山口那津男代表や広島、長崎の地方議員が先月、茂木敏充外相に要望書を手渡した。将来的には締約国会議が広島、長崎の両被爆地で開かれるよう、政府の努力も求めた。

 国連の関連会議ではオブザーバーも発言できる。気候変動や生物多様性をテーマにした会議などでも前例があると聞く。

 日本政府の考えやスタンスを国際社会に改めて伝える好機であると同時に、もし被爆地で開催できれば被爆の実相を直接知ってもらえる。原爆資料館の見学や被爆者との面会で、各国代表へ被爆者の思いを伝えることもできる。

 日本は唯一の戦争被爆国として核保有国との橋渡し役を担う。核軍縮を提言する先には、最終的に核廃絶というゴールがある。原爆投下から75年たっても、状況は遅々として進んでいない。締約国会議への日本の参加は、打開のきっかけの一つになるのではないか。来年1月の条約発効後も、被爆地開催とともに政府に求め続ける。

森本真治氏(参院広島)

立民参院国対委員長代理

保有国説得に力尽くせ

 条約発効は広島、長崎の被爆者の悲願で、私も大いに歓迎する。一方で、日本政府が署名、批准をしていないことには忸怩(じくじ)たる思いがある。被爆者の思いを受け止め、条約を批准するべきだ。

 立憲民主、国民民主両党などでつくる核兵器のない世界を目指す議員連盟(通称・非核議連)の事務局長代理を務めるが、政府の本気度が感じられない。日本が条約に参加しない理由に核保有国が賛同していないことなどを挙げているが、これまでどんな努力をしてきたのか。まず日本が参加し、米国やロシア、中国などを説得せねばならない。

 政府は、条約が保有国と非保有国の溝を深めるとも言うが、私はそう思わない。むしろ、保有国に核軍縮の努力を求める核拡散防止条約(NPT)を補完するものだ。

 もちろん条約発効後も道のりは険しいだろう。核を巡る米ロ中の緊張関係は既に高まっており、国際社会は核廃絶の流れと逆方向に向かっている。この流れを変え、世界が核廃絶へ一歩ずつ着実に進むよう導く役割が日本には求められる。

 唯一の戦争被爆国である日本が条約に加われば、世界に与えるインパクトは大きい。「核の傘」の下にある国々が核を拒絶するきっかけになるかもしれない。

 われわれ非核議連は新型コロナウイルスの影響で中断していた活動を11月中旬に再開させ、提言書をまとめる予定だ。今年は被爆75年の節目。政府に条約参加への働き掛けを強めたい。

(2020年11月1日朝刊掲載)

年別アーカイブ