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社説・コラム

社説 地上イージス代替策 立ち止まって考え直せ

 政府は、山口、秋田両県への配備を断念した地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」計画の代替策として、迎撃装備を搭載する艦船を大型化する方向で検討に入った。

 イージス機能を持つ海上自衛隊の艦船では最大規模となる見込み。居住空間を広げることで、過酷な勤務環境にある乗組員の負担を軽減できるという。

 ただでさえ海自は人手不足が深刻だ。その負担の軽減や、コスト削減が地上イージス計画の目的だった。今回の代替策では振り出しに戻りかねない。コストも、地上での計画より膨らむとの指摘もあり、妥当かどうかは甚だ疑問である。

 地上イージスは、防衛計画大綱や中期防衛力整備計画にもなかったのに、閣議決定された。十分な国会説明はなく、購入費も米国の「言い値」。ずさんな候補地選定や地元への誤った説明もあり、今年6月、断念に追い込まれた。政治主導の「導入ありき」で検討や議論が不十分だったから無理もあるまい。

 今回はどうだろう。地上イージスで米国と契約したレーダーやミサイル発射システムを解約せず艦船に載せて運用すれば、違約金を払わなくても済む―。そんな結論ありきではないか。

 政府は今後、大型化に関する中間報告などを基に精査。専用艦を含む護衛艦か民間船舶の活用か、方向性を年末に決めるという。しかし急ぐ必要はなかろう。いったん立ち止まって、必要性や費用対効果をゼロから考え直し、議論を尽くすべきだ。

 洋上運用案には課題が多い。

 米国防当局によると、地上イージスのシステムを洋上で運用した実績は乏しく、「技術的に難しい」そうだ。加えて、洋上では気象の影響を受けやすく、地上と同じ能力が発揮できるのか、懸念も拭い去れない。

 乗組員確保にも不安が残る。政府は海自の陸上勤務員を充て業務の一部を陸自に引き受けさせる考えのようだ。現場に負担を押し付けるようなら、「絵に描いた餅」で終わりかねない。

 そもそも、どれほど効果が見込めるのか。ロシアは極超音速弾頭を搭載したミサイルを実戦配備。中国も米国のミサイル防衛網を突破できるとされる同様の兵器の開発を進めている。地上での計画同様、巨額の費用をかけたのに効果がさほど期待できないことにならないか。冷静で慎重な検討が求められる。

 防衛費は今、膨張し続けている。来年度の政府予算案の概算要求では、約5兆4900億円と8年続けて過去最高を更新した。コロナ禍で国民経済は大打撃を受け、緊急支援的な歳出が今後も必要になろう。一方の歳入は先行き心もとない。

 中国の軍備増強や、北朝鮮の核・ミサイル開発など、北東アジアの情勢がいくら不安定だとはいえ、「防衛費」だけ聖域というわけにはいくまい。

 自国を守るための防衛力増強であっても、逆に他国からは脅威に映るかもしれない。結果的に緊張を高め、軍拡競争をあおることにもなりかねない。

 遠回りでも外交努力を重ねることで地域の平和と安定を目指す方が賢明なはずだ。地上イージス代替策を含めた安全保障の在り方について、政府は国民の幅広い理解を得なければならない。丁寧に説明して国会で論議を深めることが前提になる。

(2020年11月2日朝刊掲載)

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