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社説・コラム

社説 米大統領選 民主主義に泥を塗るな

 共和党のトランプ大統領と民主党のバイデン前副大統領の間で争われた米大統領選は、大接戦のまま開票が進んだ。

 最大の焦点は、米国第一主義を掲げ国内外に波乱をもたらしている「トランプ政治」の是非である。米国の将来にとどまらず、国際社会の針路も左右しかねない選挙である。審判を下す国民の関心は高かった。

 コロナ禍で、郵便投票を含む期日前投票が空前の規模で行われ、投票率も歴史的な水準になりそうだ。ただ郵便投票は開封や本人確認などが必要で開票作業に手間がかかる。一部の州では、結果の判明に時間がかかっている。

 公正な選挙は民主主義の根幹である。当選者の判明を急ぐよりも、秩序だった開票作業を貫徹することが求められるのは当然だろう。有権者の投じた票はもれなく選挙結果に反映させなければならない。  懸念されるのは、トランプ氏が民主党支持者の利用が多いとされる郵便投票を「不正の温床」と繰り返し、攻撃していることだ。

 大統領選の結果は「連邦最高裁で決着すると思う」と述べている。自身に不利な材料が出た場合は、不正があったとして訴訟に持ち込む可能性が高い。それに備えたのか、保守派の最高裁判事の任用も強行した。

 バイデン氏の陣営も郵便投票などを巡る法廷闘争を準備しているという。決着が裁判に持ち込まれ、大統領の正統性に疑義が生じる事態になれば、米国の民主主義にとっては相当な深手となろう。

 法廷闘争が長引けば、超大国の権力中枢が混乱し、空白が生じかねない。世界秩序にも大きな影響が及ぼす可能性がある。根拠のない訴訟合戦は避けなければならない。

 コロナ禍の影響で異例ずくめの選挙戦になった。形こそ激戦となったが、政策論争は低調だったと言わざるを得ない。

 トランプ氏は米国第一主義に基づき、国内では移民排斥を強行し、海外では中国などに対し貿易戦争を仕掛けてきた。選挙戦でも、自らの政策で「米国は偉大な国に復活した」と自画自賛した。

 人種差別や環境問題だけでなく、科学的な新型コロナウイルス対策さえも軽視し、自らも感染した。全米で死者数が20万人を超えても、自らの責任は棚上げして「中国のせいだ」の一点張りで通す。

 これに対し、バイデン氏は「米国の孤立を招いた」トランプ政治との決別を訴えた。国際協調主義に立ち返り、国際社会のリーダーへの復権を目指すとした。コロナ対策でも感染防止を優先する考えだ。

 両候補の主張は交わる点がないほど異なっている。自国第一か国際協調かという二つの国家像に対し、それぞれ根強い支持があることが、今回の激戦で示されたのではないか。

 この4年間、米国社会の分断は深まるばかりだった。19世紀の南北戦争期に例えられるほど亀裂は深い。激しい対立の中で、どちらが勝っても、両候補の支持者の間で小競り合いや衝突が激化することも懸念される。

 民主主義に泥を塗るような最悪の事態は避けなければならない。両候補には冷静に結果を導き出す努力が求められる。

(2020年11月5日朝刊掲載)

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