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社説・コラム

ノーベル平和賞受賞のWFP 日本事務所 焼家直絵代表(広島市西区出身)

食料支援で平和築く 被爆地と重なる願い

 世界中の飢餓地域などに食料を届ける長年の活動が評価され、ことしのノーベル平和賞に選ばれた国連機関の世界食糧計画(WFP)。日本事務所(横浜市西区)を束ねる広島市西区出身の焼家(やきや)直絵代表(47)に、活動の意義や国連機関を志したきっかけ、被爆地の訴えに通じる平和への思いを聞いた。(下久保聖司)

 受賞の受け止めを尋ねると開口一番、「新型コロナウイルスの影響で世界中がより内向き志向になる中、人道支援にスポットライトが当たってうれしい」と表情を緩めた。

 WFPはイタリア・ローマに本部を置く国連最大の人道支援機関。政治的な対立や枠組みを超え、世界80カ国以上で飢えに苦しむ約1億人に食べ物を届けてきた。「物流・輸送の実動機関でもある」と言い添える。

 備蓄拠点を各地に設け、紛争や疫病で国境が封鎖された地にも物資や人員を載せた特別機を飛ばす。「中立な人道支援機関だからできること」。そこに日本はどう貢献しているのか。

 WFPへの拠出金は昨年165億円で世界10位。日本事務所は政府や企業に活動内容を報告して資金支援を募り、ネットなどで広報啓発に務めている。

 WFPに勤めて19年。「特に思い出深い国がある」と振り返る。

 西アフリカのシエラレオネ。現地事務所副代表を務めていた2014年、致死率が極めて高いエボラ出血熱が広まる中、同国にとどまって隔離地域の患者や家族らに食料を届ける活動を指揮した。「壮大な使命感というよりは、自分が目指してきた人間像として、こういう局面で逃げてはならないと思った」

 その人間像は育った被爆地で形づくられた。「広島ならではの平和学習の影響が大きい」という。広島女学院中・高時代は観光客たちに平和記念公園(広島市中区)を案内するボランティア活動に携わった。「平和に思いを巡らせる中で人権尊重や差別撤廃を掲げる国連憲章に触れた」。国際基督教大を卒業後、非政府組織(NGO)などで多くの現場を踏んだ。

 WFPが力を注ぐのは発展途上国などの学校給食支援だ。「給食があるから子どもは足を運び、親も通わせようとする。教育充実の機会につながれば」と語る。毎日多くの食べ物が捨てられるフードロスが社会問題化する日本。WFPのノーベル平和賞受賞が、日々の暮らしを見つめ直すきっかけになることも願っている。

世界食糧計画(WFP)
 戦争や自然災害などの緊急時に、必要な食料を配給して命を救うことを目的に1961年設立。職員は約1万9千人。2018年は支援のため食料360万トンを購入した。活動は任意の資金拠出や募金で賄われている。30年までに飢餓をなくすことを目標とし、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)や国連児童基金(ユニセフ)とも連携している。

(2020年11月7日朝刊掲載)

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