社説 バイデン氏 勝利宣言 分断埋め米国の再生を
20年11月10日
大接戦となった米大統領選で、民主党のバイデン前副大統領が勝利宣言にこぎ着けた。
だが、共和党のトランプ大統領は敗北をすんなり認めていない。7100万票を超す、前回選挙以上の票を得たとはいえ証拠も示さず、法廷闘争を続けるのはいかがなものか。
対するバイデン氏の得票は、史上最多の7500万票台に乗っている。にもかかわらず、勝利宣言では「分断ではなく、融和を目指す大統領になる」と真っ先に誓った。「岩盤支持層」と呼ばれる4割の支持で十分だと言わんばかりに、人々を敵対させてきたトランプ氏の姿勢とは決定的に異なる。
今回の選挙は現職大統領に対する信任投票の側面もあった。世論調査でも、「トランプ氏でないから」をバイデン氏支持の理由に挙げる人が目立った。
いま、求められているのはバイデン氏も約束した通り、「全国民の大統領として統治する」ことにほかなるまい。
もちろん、口で言うほど、その実行は簡単ではない。
グローバル化やIT化、多様化といった時代の波から取り残された一部労働者層など、「忘れられた人々」の不満や怒りは根深いからである。
次期大統領として、まずは新型コロナウイルス禍の克服が求められよう。米国内のコロナ感染者は、とうとう1千万人を超え、犠牲者も23万人といずれも世界最悪である。
コロナによる米国経済の痛手も大きい。国内総生産(GDP)の下落率が第2次大戦終結後で最悪となり、失業率も大幅に悪化した。トランプ氏を前回勝利に導いたラストベルト(さびた工業地帯)で今回、バイデン氏支持に回った州があるのも、そのあおりに違いない。
外交面でも、路線転換が急がれる。「米国第一主義」に振り回されてきた世界から向けられる視線は、この4年間のうちに冷え冷えとしたものに変わっている。「多国間主義」に立ち戻る必要があろう。
焦点と目されている中国との関係で考えれば、気候変動の対策では双方の国益が重なるはずだ。その点、バイデン氏は既にパリ協定への復帰や、再生可能エネルギーの導入などで脱炭素化を目指す意向を明らかにしている。地球温暖化問題での対中協力を足掛かりに、貿易問題などでもすり合わせの余地を探ってもらいたい。
そのためには米議会との協調、中でも共和党との融和が欠かせない。議会人として長く活動し、党派間の交渉に携わってきたバイデン氏の経験はプラスに働くのではないか。
トランプ政権は、党派を超えた多数派形成の労を惜しみ、大統領令を連発してきた。その手法はしかし、前のオバマ政権でも多用されたものだ。そうした分断の流れをどう断ち切り、多様性を力の源泉とする米国の原点に立ち戻るのか。
民主主義や人権といった価値観に限らず、格差拡大や移民などの課題も同じように抱える日本社会にとって、決して対岸の火事ではない。
被爆地の悲願であり、来年1月に発効する核兵器禁止条約を正面から受け止め、核軍縮の道筋を切り開こうとするかどうか。日米同盟の行方とともに、私たちも注視する必要がある。
(2020年11月10日朝刊掲載)
だが、共和党のトランプ大統領は敗北をすんなり認めていない。7100万票を超す、前回選挙以上の票を得たとはいえ証拠も示さず、法廷闘争を続けるのはいかがなものか。
対するバイデン氏の得票は、史上最多の7500万票台に乗っている。にもかかわらず、勝利宣言では「分断ではなく、融和を目指す大統領になる」と真っ先に誓った。「岩盤支持層」と呼ばれる4割の支持で十分だと言わんばかりに、人々を敵対させてきたトランプ氏の姿勢とは決定的に異なる。
今回の選挙は現職大統領に対する信任投票の側面もあった。世論調査でも、「トランプ氏でないから」をバイデン氏支持の理由に挙げる人が目立った。
いま、求められているのはバイデン氏も約束した通り、「全国民の大統領として統治する」ことにほかなるまい。
もちろん、口で言うほど、その実行は簡単ではない。
グローバル化やIT化、多様化といった時代の波から取り残された一部労働者層など、「忘れられた人々」の不満や怒りは根深いからである。
次期大統領として、まずは新型コロナウイルス禍の克服が求められよう。米国内のコロナ感染者は、とうとう1千万人を超え、犠牲者も23万人といずれも世界最悪である。
コロナによる米国経済の痛手も大きい。国内総生産(GDP)の下落率が第2次大戦終結後で最悪となり、失業率も大幅に悪化した。トランプ氏を前回勝利に導いたラストベルト(さびた工業地帯)で今回、バイデン氏支持に回った州があるのも、そのあおりに違いない。
外交面でも、路線転換が急がれる。「米国第一主義」に振り回されてきた世界から向けられる視線は、この4年間のうちに冷え冷えとしたものに変わっている。「多国間主義」に立ち戻る必要があろう。
焦点と目されている中国との関係で考えれば、気候変動の対策では双方の国益が重なるはずだ。その点、バイデン氏は既にパリ協定への復帰や、再生可能エネルギーの導入などで脱炭素化を目指す意向を明らかにしている。地球温暖化問題での対中協力を足掛かりに、貿易問題などでもすり合わせの余地を探ってもらいたい。
そのためには米議会との協調、中でも共和党との融和が欠かせない。議会人として長く活動し、党派間の交渉に携わってきたバイデン氏の経験はプラスに働くのではないか。
トランプ政権は、党派を超えた多数派形成の労を惜しみ、大統領令を連発してきた。その手法はしかし、前のオバマ政権でも多用されたものだ。そうした分断の流れをどう断ち切り、多様性を力の源泉とする米国の原点に立ち戻るのか。
民主主義や人権といった価値観に限らず、格差拡大や移民などの課題も同じように抱える日本社会にとって、決して対岸の火事ではない。
被爆地の悲願であり、来年1月に発効する核兵器禁止条約を正面から受け止め、核軍縮の道筋を切り開こうとするかどうか。日米同盟の行方とともに、私たちも注視する必要がある。
(2020年11月10日朝刊掲載)