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社説・コラム

『記者縦横』 核禁条約に背 情けない

■ヒロシマ平和メディアセンター 山本祐司

 被爆地広島で聞いた念願のニュース。感激もひとしおであることが、こちらにも伝わってきた。批准した国・地域が50に達し、核兵器禁止条約が来年1月に発効すると報じられた10月25日朝、宮城県原爆被害者の会の木村緋紗子会長(83)は、現在住む仙台市からちょうど里帰りしていた。

 「原爆の絵」を制作する基町高(広島市中区)の生徒に自身の体験を描いてもらうためだ。「亡くなった先人たちに伝えたい」。会うなり、涙とともにあふれる思いを語ってくれた。

 「先人」とは、原爆犠牲者と、戦後に被爆者運動を続けた人たちを指す。その中には、女性で初めて日本被団協代表委員や広島県被団協理事長を務めた故伊藤サカエさんらがいる。木村さんは、被爆死した父や、共に核兵器廃絶を懸命に訴え続けた被爆者たちの名前を口にし、思いをはせた。

 それだけに、条約に背を向けたままの日本政府に話が及ぶと表情は一変。「怒りが湧いてくる」と語気を強めた。

 同じ言葉をカナダ在住の被爆者サーロー節子さん(88)との電話で聞いた。発効決定を「死者に報告したい」と喜びつつ、日本政府に対して抱くのは「Anger(怒り)以上にRage(激怒)」だと。正直なところ、私の日本政府に対する思いは「情けない」だった。あの悲惨を自ら体験した人たちの切迫感を、本当に理解してきたのか自問した。核抑止力を求める被爆国の姿。「情けない」では済まない。

(2020年11月13日朝刊掲載)

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