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社説・コラム

社説 核兵器禁止条約発効へ 被爆地の訴え 結実した

 人類は核兵器とは共存できない―。そんな被爆地広島・長崎の訴えがようやく重い扉をこじ開けた。核兵器禁止条約の批准数がきのう、50カ国・地域に達し、来年1月22日に発効する。

 開発から使用まで核兵器を全面禁止する初めての国際規範である。保有国の抵抗や、被爆国日本の不参加など、課題は山積みだ。それでも、核兵器の時代に終止符を打つ歴史的な一歩となるのは間違いあるまい。

 発効が決まったのを機に、日本政府は、これまでの後ろ向きな姿勢を転換すべきだ。条約に参加して、米国をはじめ保有国に廃絶への具体的な道筋を示すよう迫らなければならない。

 禁止条約は、被爆地の長年の訴えを形にしたと言えよう。国際司法裁判所(ICJ)が1996年に出した勧告的意見より踏み込んでいる。ICJは核兵器の使用は国際法違反かどうかを審理し、「使用と威嚇は一般的に国際法違反」と判断した。ただ、国家存亡に関わる自衛は「違法か合法か結論を出せない」と曖昧さも残した。

 この点、禁止条約は、国家存亡の機にあっても核兵器の使用は許されない、とした。さらに保有まで禁じたのは、核抑止論の全面否定でもある。

 ICJの審理で、当時の平岡敬広島市長や伊藤一長・長崎市長は、日本政府による「圧力」にも負けず、無差別で残虐な被害をもたらす核兵器は国際法違反だと明言。廃絶を求める国際的なうねりの原動力となった。今回の禁止条約で、被爆地が75年間求めてきた核兵器の非合法化がようやく結実する。

 今後、保有国がどんな言い訳をしようとも、条約発効後に核兵器を持っていれば、国際法違反となる。批准を撤回するよう複数の国に米国が圧力をかけたことが報じられた。発効すれば、廃絶を求める国際的な圧力が一層高まることを警戒したのだろう。追い詰められている焦りもあるのではないか。

 とはいえ、核なき世界までの道は平たんではない。米国やロシア、中国といった保有国が立ちふさがっている。核拡散防止条約(NPT)の第6条に定められた「核軍縮に向けて誠実に交渉する義務」に後ろ向きであるどころか、近年は小型核をはじめ「使える核」の開発に乗り出す国まである。看過できない。

 国防を建前に、軍備増強を図って相手国より優位な立場に立とうとしているだけだろう。核軍拡競争は人類全体を危険にさらすことを、米中ロの指導者は自覚する必要がある。

 被爆国の役割も改めて問われよう。保有国との「橋渡し役」を果たすと言うが、米国に忖度(そんたく)しているとしか見えない。国連総会に毎年出している核兵器廃絶決議案の内容が、トランプ政権発足の2017年から後退していることが、その証拠だ。

 政権与党の公明党が、発効後に開かれる条約締約国会議へのオブザーバー参加の検討を政府に要望した。被爆国の役割を果たすには、禁止条約に真剣に向き合わなければならない。

 条約では、核兵器の使用や実験の被害者への医療・心理、社会的、経済的支援や、核実験などで汚染された地域の環境改善も義務付けている。広島・長崎が蓄積してきた科学的な知見やノウハウを生かせそうだ。何ができるか考えていきたい。

(2020年10月26日朝刊掲載)

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