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上関原発計画 「回帰」の流れ 警戒と期待 闘い長期化 住民に疲労

 政府の成長戦略に「原発の活用」が盛り込まれ、原発再稼働に向けた動きを加速させているようにみえる安倍晋三政権。中国電力の上関原発計画がある山口県上関町では、政府の「原発回帰」に対する警戒感と計画再開への期待感が住民に交錯している。

 「安倍さんは危険な原発を輸出しようとしている。国内の上関原発も建てたいのでしょう」。6月26日、株主総会が開かれた広島市中区の中電本社前。上関町祝島からバスで駆け付け、座り込みを続けた中村隆子さん(83)は不安を漏らした。

 2011年の福島第1原発の事故後、大きな節目を迎えた国の原子力政策。民主党政権は原発稼働ゼロを目指す方針を決め、中電も上関原発予定地の準備工事を中断した。

ゼロ方針撤回

 しかし、昨年の衆院選で大勝した自民党の安倍首相は原発ゼロ方針を撤回。参院選の公約には、原発再稼働に向けて地元自治体の理解を得る「最大限の努力」も明記した。

 「上関原発も動きだす」。反原発運動の拠点、祝島の反対派が警戒を強める中、その足元でも予期せぬ事態が起きている。

 原発計画に伴う漁業補償金約10億8千万円の受け取りを拒んできた県漁協祝島支店が2月末、一転して受け取る方針を決めたのだ。

 賛成に回った組合員には「上関原発はもうできない。もらっても大丈夫」との考えもあったとみられる。

 しかし、反対派の牙城とされた祝島支店が受け取り議決を決めた衝撃は大きく、反対派は近く提示される補償金の配分案を否決するよう団結を図る。

 反対派組合員の橋本久男さん(61)は「計画が残り続けるから補償金問題も再浮上する。国が白紙撤回を決めるまで、闘い続けるしかない」と長い闘いに苦悩をにじませる。

 一方、町商工事業協同組合の角田五明事務局長(64)は「参院選で自民党が勝てば上関原発にも追い風が吹く」と期待を込める。

補選では大差

 組合の建設業者は参院選山口選挙区に立候補する自民党現職を支援。4月の参院山口補選で支えた自民党新人は、上関原発建設の中止を訴えた閣僚経験者の無所属新人らを大差で破った。

 「選挙では揺るがない民意を何度も示してきた」。町商工会経営指導員を37年間務めてきた角田さんは言う。「安倍首相の任期中に上関原発の結論を出してほしい。過疎高齢化の町にはもう時間がない」(久保田剛)

国の原子力政策
 民主党政権は2012年9月、30年代に原発稼働ゼロを目指す新戦略を決定。上関原発は建設を認めないとした。政権交代後、安倍晋三首相はゼロ方針の見直しを表明。原発の新増設については「腰を据えて検討する必要がある」としている。12年度版エネルギー白書からは、新戦略の記述がなくなった。

(2013年7月2日朝刊掲載)

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