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社説・コラム

社説 日中関係 懸案解決に対話重ねよ

 中国の王毅・国務委員兼外相が来日し、菅義偉首相や茂木敏充外相らと会談した。菅政権が9月に発足して以来、中国首脳との会談は初めて。ビジネス関係者の往来再開や閣僚級の「ハイレベル経済対話」を開くことなどで合意した。

 新型コロナウイルスの感染拡大もあって冷え込む両国間の経済協力を進展させる上で、意義のある会談だったのは間違いない。一方で尖閣諸島周辺への領海侵入については認識がかみ合わず、溝の深さが際立った。

 中国の最近の動きを見れば、経済をてこに国際社会で存在感を強める戦略的な意図は明らかである。中国側から働き掛けてきたという今回の日本訪問も、その一環だろう。

 最大の貿易相手である隣国と、良好な関係をどう築くか。経済的な関係強化と安全保障問題のバランスを取りながら、かじ取りに当たらねばなるまい。外交手腕が問われる。

 先日、日中を含む15カ国が関税削減や統一的ルールで自由貿易を促進する「地域的な包括的経済連携(RCEP)」協定に合意、署名した。

 自由貿易を推進する中国の姿勢は一定に評価できるだろう。環太平洋連携協定(TPP)にも参加意欲を示している。

 しかし、こういった動きの背景には、貿易摩擦などで米国と対立している中国が、米主導の「対中包囲網」を切り崩す狙いが見て取れる。大統領選の混乱や政権交代期に生じる米国の隙を突く「攻勢」ではないか。

 米国のTPP復帰は、バイデン政権に代わっても反対世論の強さから難しいとみられる。米不在の間に、多国間貿易において中国が主導権を握る思惑なのだろう。日米同盟の弱体化も狙っているに違いない。そういった思惑を十二分に注視、警戒する必要がある。

 というのも、安全保障面においては強硬な姿勢を崩していないからである。

 尖閣諸島周辺では中国海警局の船が頻繁に航行。11月初めに年283日と過去最多となり、その後も更新している。

 王氏は今回、中国船の領海侵入を正当化してみせた。1回目の外相会談後の共同記者発表で「水域に入った日本漁船への必要な反応だ」と発言。その上で「自国の主権を守る」と改めて領有権を主張した。

 茂木外相がその場で明確な反論をしなかったことに対し、「弱腰だ」という批判が一時、与党内にも広がった。茂木外相や政府はその後、「王氏の発言は受け入れられない」と伝えたと弁明したものの、対中感情や世論がまた硬直化する結果となったのは残念だ。

 海上での偶発的な衝突も懸念される中、日中防衛当局の間で「海空連絡メカニズム」にホットラインを開設する方針で今回、合意したという。緊張緩和への一歩としたい。

 香港の民主派弾圧や新疆ウイグル自治区への統制強化のほか南シナ海への進出など、中国による強権政治と軍拡路線には、国際社会も批判を強めている。

 王氏に対し、菅首相や茂木外相は懸念を伝えたという。姿勢を改めるよう、今後も対話を重ねながら粘り強く促していくしかなさそうだ。経済関係を重視する余り、中国の覇権主義を見過ごしてはならない。

(2020年11月29日朝刊掲載)

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