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社説・コラム

天風録 『よみがえる、軍用飛行船?』

 きさらぎの天のひかりに飛行船ニコライ寺の上を走れり(斎藤茂吉)。大正の初め、東京・駿河台に今もある教会、ニコライ堂を詠んだ歌だが、飛行船の方は今どきの空飛ぶ広告塔とは趣が違う。ドイツからの輸入機を目撃したようだ▲昭和の初めには、同じドイツのツェッペリン号を茂吉は〈黄色(わうしょく)のふね〉と詠んだ。ツ号は飛行船の代名詞。世界一周飛行で日本に立ち寄った。だが10年もしないうちにヒンデンブルク号が米国の飛行場で炎上し、飛行船の栄華は突如終幕を告げる―▲世界の空の歴史を少々おさらいしたのは、先日の本紙に載った外電「大連に飛行船基地」が気になるからである▲巡航ミサイルの攻撃を早期に探知する中国人民解放軍の無人機で、全長50メートルの機体と滑走路が確認された。今後飛行船がひそむのは高層大気圏で、人工衛星の軌道より低く飛行機が飛ぶには高すぎるゾーン。地上からどう見えるか分からないが、飛行船の目はお見通しなのだろう▲第1次大戦の初期、ドイツは飛行船でロンドンを空襲した。この街を舞台に見立てたウェルズの小説「宇宙戦争」にも似た恐怖の的だったらしい。到底、詠ずる気にならぬ魔の〈ふね〉もある。

(2020年12月3日朝刊掲載)

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