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島根原発 稼働手続き 懸念の声 15メートル防波壁の建設進む

 「原発ゼロ」を撤回した自民党政権の下、中国電力が島根原子力発電所(松江市鹿島町)の稼働申請を急いでいる。申請後には、稼働の是非をめぐる地元の議論も始まる。だが防災の課題などが山積する中、住民には性急な手続きを懸念する声が根強い。

 島根原発1、2号機の海岸に立つ海抜15メートルのコンクリート壁。6月中旬に外観がほぼ出来上がった防波壁だ。3号機近くの防波堤も完成している。

「津波大丈夫」

 「あれだけ高ければもし津波が来ても大丈夫だろう」。原発の南西2キロ、鹿島町古浦地区の自治会長亀城幸平さん(63)は、福島第1原発事故を受けた中電の安全対策を評価。稼働を支持する立場だ。

 「地元の地区では、3号機への反対は聞こえない」。安全対策の説明で地元を歩く中電島根原子力本部渉外運営部の小山均明部長(51)は言う。中電は2号機に加え、建設中でほぼ完成した3号機の稼働を目指す。

 福島の事故から2年余り。東京電力が2日、柏崎刈羽原発(新潟県柏崎市)の再稼働の申請を決めるなど他電力にはさらに進んだ動きもある。ある島根県の自民党県議は「事故の記憶が薄れ、最新の3号機は動かすと言いやすくなった」とみる。

 だが、自民党支持層にも反対の声は多い。4月の松江市長選で309人に聞いた中国新聞社の出口調査では、同党支持者140人のうち、島根原発の再稼働、稼働に「賛成」と答えたのは約4割。「反対」「どちらともいえない」は計約6割。安全性への不安を反映した。

 防災の不備を指摘する声もある。原発の南東約6キロの特別養護老人ホームうぐいす苑は、入所者60人の大半が自力で避難できない。だが、自前の避難車両は2台5人分だけだ。島根県が検討する搬送手段の確保は進まず避難先やルートも未定。杉村由紀子苑長(45)は「今原発を動かすと言われても納得できない」と話す。

両首長が判断

 交錯する民意を、地元の県と松江市がどう集約するか。8日に施行される新規制基準に基づく中電の稼働申請を国がチェックしクリアした場合、両首長の判断が稼働を左右することになる。

 浜岡原発(静岡県御前崎市)の再稼働問題では、6月に再選した川勝平太知事が県民投票に意欲をみせる。一方、島根県の溝口善兵衛知事は25日の会見で否定的な見解を表明。「立地自治体や周辺自治体、議会、県民の声を総合的に判断する」と述べるにとどめた。

 「あいまいな政治判断はやめてほしい」。福島の事故直後に原発の北約21キロの南相馬市から家族5人で松江市に避難した会社役員猪苅(いがり)美和さん(46)は話す。「原発の危険性は福島の事故が証明した」と猪苅さん。「政治は幅広く民意を集めて向き合い、とことん議論を尽くす責任がある」と訴える。(樋口浩二)

島根原発
 1号機(出力46万キロワット)2号機(同82万キロワット)はそれぞれ1974、89年に運転を開始。ともに定期検査で停止中。3号機(同137・3万キロワット)は建設工事をほぼ完了し、核燃料の挿入に必要な検査を終えた。原子力規制委員会が、事故時に原子炉格納容器の圧力を下げるフィルター付きベント設備の設置を稼働条件としており、中電は2、3号機で2014年度に完成させる。

(2013年7月3日朝刊掲載)

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