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社説・コラム

『潮流』 共同行動と橋渡し

■ヒロシマ平和メディアセンター長 金崎由美  国連総会の本会議で7日、日本政府が例年通りに提出した核兵器廃絶決議案が150カ国の賛成で採択された。タイトルは「核兵器のない世界に向けた共同行動の指針と未来志向の対話」。核兵器禁止条約の発効が来年1月に迫るタイミングなのに、条約への直接の言及はない。賛成は昨年から10カ国減った。

 どんな議論がされたのか。日本は対立深まる核保有国と非保有国との「橋渡し役」を自任しているが、務まるのか―。そう思いながら、本会議と、最初に決議案を扱った11月の総会第1委員会の様子を国連の公式動画サイトで視聴した。

 議場では、決議案全体とともに、段落ごとに分割して賛否を問う投票が行われた。15段落分に上る。意見が割れるポイントがそれだけ多かったのだろう。

 「過去の合意事項の『履行』を迫る文言が消えた」「包括的核実験禁止条約(CTBT)の早期発効を求める表現が弱くなった」。各国が自らの投票行動を説明する場面では、日本が重視しているはずの核拡散防止条約(NPT)やCTBTを巡り手ぬるさを指摘する意見が相次いでいた。

 日本の課題は、核兵器禁止条約だけでない。広島・長崎訪問を促し、軍縮教育の必要性を説く文言などは評価すべきだが、被爆地の市民としては少々ショックを覚えた。「核の傘」を提供する米国に遠慮しながら核兵器廃絶を唱える被爆国の矛盾は、もう隠しようがないということか。CTBT未批准でもある当の米国は今年、賛成国に名を連ねた。

 日本の決議案に対し、「将来の共同行動に向けて、真の橋渡し役となるよう望む」と棄権票を投じたオーストリア代表。皮肉のようにも聞こえる。被爆地、さらには非保有国との溝を抱える日本政府が橋渡し役を必要とする側になってほしくはない。

(2020年12月10日朝刊掲載)

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