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社説・コラム

[ウエーブ WAVE] 米国人ピースガイド メアリー・ポピオさん(28)=広島市西区

被爆者の思い 世界中に

 華やかなストールが人々の目を引き付ける。広島市中区の平和記念公園。アクセントに少し特徴があるものの正確な日本語で、ガイドする修学旅行生たちに呼び掛けた。「想像してください。ここに普通の人たちの暮らしがあったことを。それを原爆が一瞬で奪ったことを」

 広島でピースガイドに携わって半年。原爆を投下した国の人が、落とされた側の人を案内することに、今でも葛藤がないわけではない。「どうして米国人のあなたがガイドをしているの」と問われたこともある。それでも自分が居るべき場所は「ヒロシマ」だとの思いが強い。

 思えば幼い頃から日本文化がそばにあった。きょうだいで遊んだのは日本製のゲーム機。屋外では人気漫画「ドラゴンボール」のキャラクターをまねて遊んだ。進学したイエズス会系の大学でも東アジアの歴史文化を専攻した。

 転機となったのは2012年の夏。隠れキリシタンの調査で初来日し、長崎市の原爆資料館で初めて触れる被爆の実態に衝撃を受けた。破壊されたマリア像や被爆死した神父。「なぜクリスチャンの国である祖国は、極東のコミュニティーを破壊したのか」。怒りと疑問が湧き上がった。

 翌年、再来日し広島へ。ゲストハウスで2カ月間インターンをしながら、原水爆禁止世界大会に参加して被爆者と話をした。「アメリカに憎しみは残っていますか」。被爆者はこう答えた。「自分の心が平和にならないと世界は平和にならない。憎しみでは前に進めない」。心を揺さぶられた瞬間だった。

 16年、元広島平和文化センター理事長のスティーブン・リーパーさんに誘われ、平和教育に取り組むNPO法人ピースカルチャービレッジ(三次市)の設立に参加したのも、「私の人生のミッション。米国人だからこそ広島を世界中に発信したい」との思いがあったからだ。

 家族は「神様がメアリーを広島に導いた」と背中を押してくれた。ガイド仲間たちも口をそろえて励ましてくれる。「メアリーのガイドにこそ価値がある」

 初来日から8年。今日も原爆ドームを臨む元安川の岸辺で、目を閉じ耳を澄ますよう修学旅行生に呼び掛ける。ほおをなでるそよ風、鳥のさえずり、近くを通る路面電車の音…。75年前の8月6日朝も、同じ音、人の営みがあったことを感じてもらいたいから。(猪股修平)

メアリー・ポピオ
 米ボストン市出身。ボストンカレッジ卒業後、ワシントンの戦略国際問題研究所職員などを経て、2016年にNPO法人ピースカルチャービレッジの共同創業者。20年度から平和記念公園で本格的にガイドを始め、事業統括ディレクターも務めている。

(2020年12月18日朝刊セレクト掲載)

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