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社説・コラム

社説 イージス艦新造 抜本的見直しが必要だ

 天気が悪い上、波高しといった状況である。このまま荒海に突っ込んで大丈夫なのか。そんな不安を拭い去れない。

 政府はきのう、ミサイル防衛に関する文書を閣議決定した。山口、秋田両県への設置を断念した地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」計画の代わりとして、イージス艦2隻の新造などを盛り込んでいる。

 地上配備から艦船搭載への百八十度の方針転換で、隊員不足の深刻な海上自衛隊にさらなる負担を強いることになる。

 艦船は悪天候では運用できず、定期的な整備も不可欠だ。24時間365日、切れ目のない防護は困難だと指摘される。地上配備だと常時防護が可能になるとの政府の触れ込みは完全にひっくり返った。  かつて北朝鮮の核・ミサイル開発への危機感をあおっていた政府だが、真剣に国民の安全を守ろうとしているようには見えない。新造を含めミサイル防衛の抜本的見直しが必要である。

 そもそも政府が地上イージスを選んだのは、海自の負担軽減が狙いだった。イージス艦の乗員は、限られた人数で昼夜を問わず高い集中力が求められる。過酷な勤務を強いられる乗員が、2隻新造で新たに600人程度必要となる。

 コストという高波も待ち受けている。2隻の新造費は試算では4800億~5千億円に上る。政府は口を閉ざしているが、洋上での維持管理費も相当高額になるとみられる。地上イージスに比べ、大幅なコスト増になるのは間違いあるまい。

 艦船に載せるレーダーは、もともと地上用として開発中のものを転用する方針だ。艦船用より大きいため、大きな船でないと搭載できず新造費は膨らんでしまう。それでもレーダー購入をキャンセルして巨額の違約金を払わなくて済むから、目をつむろうというのだろうか。

 艦船の新造には5年ぐらいかかるという。完成したころには「無用の長物」になっていないか。というのもロシアや中国は極超音速弾頭を積んだミサイルをはじめ、レーダーをかいくぐるような兵器開発や実戦配備に力を入れているからだ。

 新造に多額の税金を投入する以上、効果が十分期待できないと国民の理解は得られまい。

 閣議決定した文書には、相手領域内で日本を狙うミサイルを阻む「敵基地攻撃能力」保有を明記しなかった。安倍晋三前首相は前のめりだったが、抑止力強化を引き続き検討するとして、政府は結論を先送りした。

 ただ射程百数十キロという陸上自衛隊の地対艦誘導弾の飛距離を900キロ程度まで延ばし、敵の攻撃が届かない場所から発射できる「スタンド・オフ・ミサイル」として開発する方針を盛り込んでいる。いずれ敵基地攻撃能力を持つための布石にするつもりなら到底許されない。

 憲法に基づく「専守防衛」の理念を逸脱しかねないからだ。スタンド・オフ・ミサイルの開発や保有は、周辺国には脅威として映り、地域の緊張を高めてしまう。中国などとの軍拡競争に巻き込まれる恐れもある。

 地域の平和と安定のため、政府は敵基地攻撃能力は持たず、外交努力を優先させると国内外に明らかにすべきである。なし崩し的に専守防衛を逸脱することへの歯止めにもなる。

(2020年12月19日朝刊掲載)

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