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「フクシマ」伝わる緻密さ 半田也寸志さん英語版写真集 全体を想像する力喚起

 東日本大震災の惨状を世界に伝えようと、写真家半田也寸志(やすし)さん(57)=東京都=が英語版の写真集「MIGHTY SILENCE(巨大な沈黙)」を刊行した。解説を寄せた一人が広島大大学院准教授で美学者の桑島秀樹さん(43)。「想像を超える惨事が現実化した」という共通点で被災地と被爆地ヒロシマが結ばれるとの視点を提示し、負の記憶の継承に芸術が果たし得る役割を作品に見いだしている。

 半田さんは2011年4月末から5月上旬にかけて三陸海岸で撮影。家や車が転がり、人々の営みが奪われた町と向き合った。12年3月に日本で写真集「20DAYS AFTER(20日後)」(ヨシモトブックス)を出し、展覧会も開いた。悲惨な現実の中、かすかな光が希望を感じさせる美しさを持つ作品だ。

 海外では原発問題も含めた被災の全体を「フクシマ」と呼ぶ。その実態を伝えるため半田さんは12年8月、福島県の楢葉町や飯舘村を取材した。英語版はことし3月、イタリアの出版社から出し、福島で撮影した新作19点を含む計108点を収めている。

 桑島さんは、大きく引き延ばされた半田さんの写真を展覧会で見て「原爆投下後の広島の焼け野原を連想した」と話す。ただ「原爆と同様に、震災という現実の全体を表現することはできない」とした上で、「がれきの質感が伝わるほど緻密に細部を切り取った写真には、じっと見つめるうちに全体を想像させる強い力がある」と評する。

 英語版刊行は、原発事故後に支援を惜しまなかった各国の人々への感謝も込められている。震災直後に日本で演奏した指揮者ズービン・メータさんらも言葉を寄せた。

 写真集は欧米を中心に30カ国以上で販売される。276ページ、8379円。(渡辺敬子)

<> (2013年7月4日朝刊掲載)

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