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連載・特集

回顧2020 中国地方から 安全保障

ずさんな国 残った不信

 ずさん極まりない結末だった。河野太郎前防衛相は6月15日、山口、秋田両県で進めてきた地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の計画停止を表明した。迎撃ミサイルを押し出すブースターの落下位置を制御できない欠陥が発覚し、改修に10年以上の歳月と数千億円の費用が発生することを理由に挙げた。

 直後、山口県の村岡嗣政知事は報道陣に「国防施策の方針転換を聞いたことがあるか」と問われ「ないです。もちろん」とうろたえた。陸上自衛隊むつみ演習場(萩市、阿武町)を候補地と伝えられて2年余り。急転直下の展開に振り回され、住民はおろか政府与党の自民党県議も怒りをあらわにした。

 米軍岩国基地(岩国市)への空母艦載機移転、山陽小野田市への宇宙監視レーダー配備と安全保障の名の下に軍事施設を受け入れてきた同県。村岡知事は米ハワイのイージス関連施設を視察し「安全性を確認できた」と発言。配備計画容認の地ならしはできていた。一方、ミサイル実験を重ねて精度を上げる北朝鮮に対し、地上イージスは「時代遅れ」とささやかれていた。

 河野前防衛相が約束した地元説明が果たされない中、政府は代替策の「イージス・システム搭載艦」2隻の導入を進める。地上への配備はそもそも海自イージス艦の負担軽減が目的だった。迷走は止まらない。

 防衛省のずさんな対応は米軍岩国基地のある岩国市でも波紋を広げた。同省は8月、米海兵隊が同基地の老朽化した既存の戦闘攻撃機FA18ホーネット12機に代えて、最新鋭ステルス戦闘機F35B16機を追加配備する計画を市に説明した。

 問題は9月、福田良彦市長が「住民の生活環境に大きな影響を与えるものではない」と計画容認を表明してから3日後に起きた。同省は当初の説明にはない追加の情報を市に提供。機体の入れ替え作業に約半年かかり、その間の機能を補完する12機のFA18が新たに飛来するとの内容だった。

 2018年3月に空母艦載機約60機の移転が完了し、所属約120機と極東最大級の航空基地となった。同省が遅れてよこした情報は、一時的とはいえ所属機がさらに28機増える重大な内容だった。福田市長は計画容認を撤回しなかったが、説明に訪れた森田治男中国四国防衛局長に対し「情報提供の在り方の認識を改めるよう強く求める」と不快感をあらわにした。

 中国の活発な海洋進出や北朝鮮の核・ミサイル開発を受け、住民は岩国基地の軍事拠点化が一層進むのではないかと不安を募らせる。9月に初入閣した岸信夫防衛相(衆院山口2区)には、騒音や事故などへのリスクと向き合う周辺自治体に十分な説明を尽くす姿勢が、まず求められている。(門脇正樹、永山啓一)

イージス・アショア
 イージス艦と同様のレーダーやミサイル発射装置で構成する地上配備型の弾道ミサイル迎撃システム。陸地にあるためイージス艦と比べ常時警戒が容易で、長期の洋上勤務が必要なく部隊の負担を軽くなるとされた。政府は2017年、2基の導入を閣議決定。最も効率的に日本全土を守れるとして、山口県の陸上自衛隊むつみ演習場と秋田県の陸自新屋演習場を候補地に選んでいた。

(2020年12月19日朝刊掲載)

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