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社説・コラム

社説 米国の次期政権 国内外の分断 修復急げ

 米連邦議会の上下両院合同本会議で、民主党のバイデン次期大統領の当選が公式に認められ、20日に新政権が発足する。

 バイデン氏は、米国第一主義を掲げ、独善的な振る舞いを続けるトランプ大統領とは一線を画す。国際協調や同盟国重視を目指す姿勢を歓迎したい。トランプ政権の4年で深まった国内外の分断をいかに修復するか、その手腕が問われよう。

 内にも外にも課題は山積しているからだ。トランプ氏は大統領選での敗北を認めず、証拠もないまま不正があったと主張し続けている。そんなトランプ氏はいまも岩盤支持層を擁する。国を分断する統治や自国第一の対外政策を、支持する人が確実に存在している証しだろう。

 ジョージア州では上院選の残り議席を巡り、決選投票の開票作業が続く。共和党が一つでも議席を得れば新政権と上院多数派政党が異なるねじれ状態になる。バイデン氏は分断を深めることなく超大国のリーダーにふさわしい態度で臨んでほしい。

 難しい局面なのは、国外も同様である。次期大統領としての最も大きな仕事は、トランプ政権が壊した国際的枠組みを修復することだといえよう。

 バイデン氏は、トランプ氏が一方的に離脱したパリ協定や世界保健機関(WHO)やイラン核合意などへの復帰を表明し、国際協調や対中国関係の仕切り直しなどの外交構想を描いている。しかし国際社会を混迷に陥れた米国が主導役に復帰するのは容易ではない。

 とりわけ人類の未来を左右するのが核をめぐる問題である。ところが年明け早々、米国は冷や水を浴びせられた。イランが核関連地下施設で濃縮度20%のウラン製造作業を開始したと発表したのである。核兵器製造に近づく動きであり、イランがこのまま強硬姿勢を続ければ、米国が目指す核合意への復帰や対話は困難になろう。

 同じ核超大国のロシアとの間で唯一残る核軍縮関連条約、新戦略兵器削減条約(新START)も2月に期限を迎える。バイデン氏は同条約を延長し、より包括的な交渉を進める方針である。必ず合意してほしい。

 既に核兵器を保有し、核戦力強化を進める北朝鮮の問題はより深刻である。バイデン氏はトランプ氏が行った米朝会談について、核開発を進める北朝鮮を正当化したと批判している。

 オバマ政権は、対話より圧力で北朝鮮の態度変化を待つ「戦略的忍耐」政策を貫き、その間に北朝鮮は核能力を向上させた。そんな戦略に戻すつもりだろうか。対話の道を探り、核放棄につなげなくてはならない。

 コロナ下の混乱に乗じ、覇権を狙う中国との関係も気掛かりである。「新冷戦」と呼ばれるほど悪化した対立をどうするのか。バイデン氏は同盟国と緊密に協力し、中国に協調行動を取らせるとする。しかし国際社会の批判をよそに、香港で民主派弾圧を続ける中国の強硬姿勢を見ていると簡単にはいくまい。

 鍵となるのが国際社会の結束だ。世界中がコロナ禍で苦しい今だからこそ、手を携えたい。

 被爆国であり、米ロ中とも関係の深い日本の役割も重要だ。直接対話などを通じ、各国の橋渡し役を果たすべきだ。自国第一主義がもたらした分断を修復する年にせねばならない。

(2021年1月7日朝刊掲載)

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