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低空飛行 地元通告なし 山地に騒音 小学校上空も通過 「墜落したら大惨事になる」

 中国山地で繰り返される米軍機の低空飛行訓練。広島県などが長い間、政府や米軍側に抗議や中止要請を続けているのに野放し状態だ。4月には西中国山地の訓練空域「エリア567」で米軍が訓練する際、自衛隊に事前通告していたことが分かった。関係自治体や地元住民に全く知らせてこなかった政府の姿勢に反発が広がる。(桜井邦彦、重田広志)

 「低空飛行訓練をなぜ日本でする必要があるのか。アメリカですればいいじゃないか」

 三次市作木町の岡本和彦さん(60)は首をかしげる。市から「情報連絡員」の委嘱を受けて、本年度から飛行を監視する。6月4日には所長を務める江の川カヌー公園さくぎにいて、米海兵隊岩国基地(岩国市)所属のEA6Bプラウラー電子戦機とみられる「超低空飛行」を撮影した。

 この日、EA6B機のほか、FA18ホーネット戦闘攻撃機とみられる米軍機2機も作木の上空を飛び、市に計7件の目撃情報が市民から届いた。いずれもかなり低い高度だ。

本年度は22件

 本年度、市に寄せられた目撃や騒音の情報は22件。昨年度の合計24件に迫る。作木小上空の飛行も2件あり、授業が一時中断したという。新本信之校長(52)は「トラックが通る音でも『またか』と過敏に反応する。学校の上は飛ばないでほしい」と訴える。

 作木町は、広島県から兵庫県にかけて中国山地を貫く米軍の低空飛行ルート「ブラウン」の直下にある。

 広島県北部の住民グループのメンバーとして中国山地の低空飛行を長年調べてきた岡本幸信さん(48)=京都市=によると、同小前の主要地方道と、江の川に沿ってカヌー公園前を通る国道375号の沿線は、低空で山を縫うように訓練のできる「米軍にとっての格好のルート」と言う。

何度も抗議文

 1999年の日米合同委員会の合意は、学校や病院などの上空を飛ぶ際は「妥当な考慮を払う」としている。だが、三次市などが岩国基地や在日米大使館へ抗議文を何度送っても、日常生活を脅かす行為は後を絶たない。

 作木町自治連合会会長の田村真司さん(63)は「とにかく事故が怖い。墜落したら大惨事になる」と心配する。81年9月に同町であった米軍機の墜落事故が頭をよぎる。

 広島県内の米軍機とみられる飛行の目撃や騒音の件数は12年度、1727件。県が調査を始めた97年度以降で2番目に多い。低空飛行は四国や九州など広い範囲で深刻な問題だが、参院選で取り上げる政党や候補者は限られている。困っている地域だけの問題にとどまる現実がある。

 岩国基地には米空母艦載機が移転を予定。沖縄に配備された垂直離着陸輸送機MV22オスプレイの本土訓練も計画されている。「国は米側に弱腰過ぎる。政治家も大きな課題とは考えていないのだろう。事故が起きてからじゃあ遅い」と田村さん。対策に乗り出さない政府の姿勢にいらだちを隠さない。

(2013年7月8日朝刊掲載)

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