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核禁条約 参加の道筋は

 核兵器禁止条約が22日、発効する。被爆者団体などは日本政府に署名・批准を求めているが、政府は背を向けている。米国に「核の傘」(核抑止力)を求める政府と条約との隔たり、政府が主張する核軍縮策、条約参加への道筋について論点を整理した。(水川恭輔)

抑止に関わる活動 違法化

条約と核の傘

 「条約に参加すれば、米国の核抑止力の正当性を損なう」(河野太郎前外相の国会答弁)。政府は北朝鮮の核開発などを「脅威」に挙げ、禁止条約は政府の安全保障政策とは相いれないとの考えを示してきた。

 条約は核兵器に関するあらゆる活動を禁じ、使用や保有に加え「使用するとの威嚇」なども対象とする。状況次第で核攻撃すると脅し、相手国の自制を図る核抑止に関わる活動を明確に違法としている。

 米ハーバード大法科大学院の研究グループは2018年発表の論文で、核の傘に依存する国は、使用するとの威嚇、保有や使用などの禁止事項の「奨励」の禁止などに違反すると指摘。米国の核の傘下にある日本政府が今のまま条約に批准すれば、禁止事項に違反するとみられている。

 一方、同じ論文は核の傘から外れさえすれば条約に参加でき、核保有国との軍事同盟も続けられるとも強調する。日米安保条約には核兵器に関する記述はないため、禁止条約に参加しても安保条約には違反しないと分析されている。

 ただ、核の傘の提供は、日米の首脳会談の共同声明で日本の防衛に米国の通常戦力と核戦力の双方を使うと言及するなどして確認されてきた経緯がある。政府は「安全保障に不可欠」として米国に核抑止力を求める姿勢を堅持している。禁止条約に参加するなら、この政治的な約束を見直し、「核抜き安保」関係を築く必要がある。

 そもそも核の使用と威嚇は、すでに国際司法裁判所(ICJ)が1996年の勧告的意見で国際人道法に照らして「一般的に違法」と指摘している。同法に深く関わる赤十字国際委員会(ICRC)は、いかなる使用も違反するとの見解だ。これらを土台に作られた禁止条約が発効すれば、日本の核の傘への依存が「正当」なのかを問う声が強まってくるのは必然だ。

日本のアプローチ

安保環境改善 削減狙う

 菅義偉首相は5日、禁止条約は保有国が不支持だと指摘し、異なる道筋で核兵器廃絶を目指す考えをあらためて示した。「抑止力の維持・強化を含め、安全保障上の脅威に対応しながら核軍縮を前進させる」

 政府の道筋はこうだ。安全保障環境の改善を進め、核保有国が加わる2国間や多国間の取り決めなどで核兵器数を削減。極めて少ない「最小限ポイント」に達した段階で、核兵器の廃絶と維持のための新たな法的枠組みを導入し、ゼロにする。

 世界の核兵器数は昨年1月時点で、推定約1万3千発とされる。政府は「最小限」への方策として保有国に核軍縮交渉を義務付ける核拡散防止条約(NPT)の着実な履行などを挙げてきた。この道筋を支持する専門家には、各国の安全を維持しつつ、保有国も加わった法的枠組みの検討を始められる最小限の核兵器数は世界全体で「二桁」との見方がある。

 一方、広島の反核団体などは「抑止力の維持・強化」を掲げながらどう最小限やゼロに近づけるのか、矛盾や実効性を問う声が強い。政府は、米トランプ政権が2018年に小型核の開発などを含む指針「核体制の見直し(NPR)」を示した際、核抑止力確保の点で「高く評価する」とした。条約の推進側は、このような核軍縮からの「逆行」を防いで速やかに廃絶するために禁止が必要だとしている。

周辺国と非核化推進

署名・批准への専門家提案

 禁止条約を支持する専門家たちは、日本政府が核兵器に頼らない安全保障を構築し、署名・批准するための政策を提案している。

 一つには、北東アジア非核兵器地帯化だ。日本、韓国、北朝鮮の3カ国が核を持たず、米国、ロシア、中国の3カ国は同地帯で核を使わないと定める。NPO法人ピースデポ(横浜市)などが、日本政府が核の傘を出て条約に入る環境づくりになると提案している。

 政府が国是とする「持たず」「つくらず」「持ち込ませず」の非核三原則の法制化も挙がる。与党自民党に米軍の核の国内配備の是非を検討するべきだとの声もある中、条約が禁じる核配備の容認などが法的にできなくなるからだ。

 また、広島市などは署名・批准の前でも締約国会議にオブザーバー参加することを要望している。核兵器が実際に解体・廃棄されたかどうかを確かめる検証方法の具体化や、核兵器の被害者の支援などについて、日本が持つ知見を通じた貢献などを提案している。

(2021年1月21日朝刊掲載)

核禁止条約22日発効 保有国へ圧力期待

核禁止条約発効を歓迎 広島県宗教連盟 知事に声明文

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