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原発被災者支援 動かぬ国 期待が落胆に 法成立1年 見えぬ方針

 福島第1原発事故で被災した人や、避難している人を支える「子ども・被災者支援法」は、成立から1年がたった。しかし、法に基づく施策の推進に必要な基本方針さえ、政府はまだ示せていない。膨らんだ期待は、落胆に変わりつつある。(新本恭子)

 参院選公示まで1カ月を切った6月9日、子ども・被災者支援法に関するフォーラムが広島市中区であった。「法律ができても何も変わっていない」「なぜ被災者支援が進まないのか」。集まった約50人から発言が相次いだ。グループに分かれて意見交換もした。

範囲決まらず

 支援法は、民主党政権時の昨年6月、全会派の共同提案による議員立法として全会一致で採決された。避難区域の住民だけでなく、自主避難者も支援対象に定義。必要な各種施策を講じるとした。妊婦や子どもへの特別な配慮も定めている。

 しかし、「支援対象地域」や、その前提となる基本方針がまだ決まっていない。同法は、支援対象地域については「一定の基準以上の放射線量」としか明記しておらず、線引き次第で国の財政負担の規模が大きく変わることも背景にある。

 「成立から1年以上も放置されているのは異常」。フォーラムで講師を務めた司法書士丹治泰弘さん(36)は指摘する。自身も昨年10月、福島市から岡山市南区に一家で移り住み、「福島の子どもたちを守る法律家ネットワーク」の一員でもある。「被災者の不安を和らげるには今は支援法しかない。骨抜きにしてほしくない」と訴える。

「裏切られた」

 フォーラムは、東日本大震災の被災地から広島県内に避難した人たちでつくる団体「アスチカ」が開いた。中国地方5県の最新の集計によると、震災に伴う5県への避難者は計2006人。福島県からは計961人と47・9%を占める。

 福島市から小学生の息子2人と一緒に広島市に避難している、アスチカ副代表の佐々木紀子さん(41)は「国会で決まれば物事は進むと思っていた。国を信じていたけど、裏切られた気持ち」という。

 6月中旬には、政府への被災者の不信をさらに強める問題が発覚した。復興庁で被災者支援に当たる幹部職員が、短文投稿サイトのツイッターで支援策先送りを容認するような内容を含む暴言を繰り返していた。佐々木さんは「腹が立った。せめて、この問題で支援法のたなざらしの状態に関心が高まればと思ったけど、何も変わっていない」と嘆く。

 参院選が幕を開けた4日、自民党総裁でもある安倍晋三首相は、福島市から遊説を始め復興支援への姿勢をアピールした。選挙戦の序盤が終わり、丹治さんは「原発の存続は議論になっているが、支援法をどうするかは争点になっていない。今まさに被曝(ひばく)している人への視点が欠けているのでは」との思いを強めている。

子ども・被災者支援法
 原子力政策を進めてきた国の社会的責任と今後の財政支援を明記。施策実現に当たり、住民や避難者の意見を反映した基本方針を策定するとした。支援対象は①避難区域に住んでいた人②一定基準以上の放射線量が計測された地域に住んでいるか、住んでいた人、または帰還する人―と定義し、自主避難者も含め、国が住宅確保や就業を支援する。子どもや妊婦の医療費の国財源による免除・減免、被曝(ひばく)の可能性のある子どもの健康診断なども規定している。

(2013年7月9日朝刊掲載)

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