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社説・コラム

[山口から世界へ 核兵器禁止条約発効を前に] 識者インタビュー

 核兵器の開発から保有、使用までの一切を禁止する核兵器禁止条約が22日、発効する。条約への期待や被爆者の高齢化による今後の課題を、被爆体験の継承活動に取り組む県被団協の林三代子会長(80)と県立大の加登田恵子学長(65)に聞いた。(山下美波)

加登田恵子県立大学長

被爆体験共有 若者にも

 核兵器禁止条約は、守らなければ国際法違反となる。人類が核兵器の廃絶を努力目標としてではなく、行動規範として決めたことは、歴史的にも大きな一歩だといえる。

 日頃、若者と話していると、平和を自分に引き付けて感じていないように思える。戦争体験者の高齢化により、身近に接し、考える機会がないからだろう。2015年から県原爆被爆者支援センターゆだ苑と進めている県立大の学生による被爆者への聞き取り調査では、戦争を知らない世代が個々の被爆の苦しみをどう共有できるか考えて続けている。これまで約230人の学生が参加してきた。

 証言を聞く中で、山口の被爆者は広島、長崎に増して「あの日」の出来事を家族にすら語っていない人が多いと感じた。人口比率では、被爆者健康手帳を持つ人の数が両被爆地に次いで多いが、地域に被害の傷痕がないため被爆者は孤立しがちだ。

 そうした語りにくい環境下で証言を続ける被爆者には感謝している。声を聞いた若者は、想像を絶する体験をした被爆者が目の前にいることを感じ、痛みに思いをはせてほしい。

 日本政府が条約に批准するか否かは、私たちのこれからにかかっている。条約は天から降ってきたものではない。世界中の多くの人が平和を実現するために選択した結果だと意識すべきだ。その上で「愛する人を守るためには何をすべきか」と自ら問い、行動してほしい。

林三代子県被団協会長

命脅かす存在なくそう

 条約の発効が決まった時、最高に幸せだと感じた。「二度と地獄のような思いをしてほしくない」と被爆者が続けてきた草の根の活動に、51の国と地域が「批准」という形で応え、時代を動かしたからだ。核兵器保有国や日本政府が参加していないなど課題はまだまだあるが、発効が実現できたように、民衆が訴え続ければ核兵器廃絶も可能だと確信している。

 新型コロナウイルスという世界的な脅威が渦巻く中での発効は、人類が命について立ち止まって考える良い機会だ。コロナはいずれ終息する。命を脅かす核兵器も同じようにこの世界からなくなってほしい。命を脅かす存在が消えれば、人々は心から平和を感じるだろう。

 私は原爆投下の当日、呉市から広島市中心部に住む伯父夫妻を捜すため両親と入市被爆した。遺骨は今も見つかっていない。高校卒業後に防府市へ引っ越した時、身近に被爆者は家族以外にいなかった。妊娠が分かった時も義母に出産を反対され、自分でも子どもに影響が出るのではと不安を抱えていた。

 現在も県内の若い世代を対象に証言活動を続けている。高齢化で仲間は年々減り、県被団協の地方組織も活発なのは岩国や周南など一部となった。体力的にきついが、残りの人生は若者に体験や思いをつなげることに費やしたい。伯父夫妻たち原爆犠牲者の無念を胸に、核兵器のない世界を実現させることが生かされた自分の使命だと思っている。

(2021年1月22日朝刊掲載)

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