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社説・コラム

天風録 『総会決議から75年、やっと…』

 終戦翌年の1月、初の国連総会が英ロンドンで開かれた。24日、記念すべき決議第1号を採択する。「原子力エネルギーの発見が引き起こした諸問題を扱う委員会の設置」である▲戦時中とはいえ原爆を開発し、無辜(むこ)の市民の頭上に投下した。そうした愚行の後始末を考えることが、戦後の国際社会の出発点だったわけである。委員会は、各国の軍備から核兵器をなくす方策を提案するよう期待された。だが強国は背を向け、原水爆の開発競争に没頭していく▲決議から75年。ついに核兵器禁止条約が発効した。一触即発だった東西冷戦の時代を振り返れば、隔世の感は強い。核のない世界の実現はまだこれからと思えば、「手放しでは喜べない」とこぼす被爆者の言葉が重い▲真っ先に核兵器を手中にした5カ国は国連安保理の常任理事国でもある。そろって禁止条約にそっぽを向き、それでいて世界平和の担い手と自負する。大国のおこがましさこそが、核抑止論という虚構を生んだのでは▲ヒロシマ・ナガサキの、きのこ雲の下の惨状を、ほかの誰にも体験させてはならない―。くだんの委員会が今も存続しているなら、被爆者の叫びと重なる結論をまとめるはずだ。

(2021年1月25日朝刊掲載)

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