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首相「署名の考えない」 核禁止条約発効 内閣 後ろ向き発言相次ぐ

 22日発効した核兵器禁止条約に、菅内閣からは後ろ向きな発言が相次いだ。菅義偉首相は参院本会議の代表質問で「条約に署名する考えはない」と改めて述べた。「核兵器国のみならず多くの非核兵器国からも支持を得られていない」と実効性に疑問を示し、連立を組む公明党などが求める締約国会議のオブザーバー参加にも慎重な姿勢を崩さなかった。(下久保聖司、桑原正敏、河野揚)

 同党の山口那津男代表は先日就任した米国のバイデン大統領がオバマ政権の「核兵器なき世界」の理念を引き継ぐと表明したことを指摘。締約国会議のオブザーバー参加は政府が担うとしている立場の異なる国々の「橋渡し役」につながるとし、被爆地広島、長崎への会議誘致も求めた。

 与党党首からの投げ掛けに対する答弁でも、菅氏は手元の原稿を淡々と読み上げた。「地道に現実的に核軍縮を進めさせる道筋を追求していくことが適切」。その具体策には踏み込まず、締約国会議についても「オブザーバー参加を含め、会議への関与は慎重に見極める必要がある」と話すだけだった。

 安倍晋三前首相(山口4区)と同じく菅氏も、核兵器廃絶を巡る国会の答弁や記者会見で紋切り型の答えに終始する。その傾向は岸信夫防衛相(山口2区)や茂木敏充外相にも通じる。

 両氏はこの日の記者会見で、条約に関する発言に「核なき世界に向けた国際社会の取り組みをリードする」「条約が目指すゴールは共有している」「現実の安全保障上の脅威に適切に対処しながら」など、菅氏が7日の記者会見などで述べてきたのとほぼ同じ表現を盛り込んだ。

評価の声や課題指摘 広島地盤の与野党議員ら

 核兵器禁止条約が発効した22日、広島県を地盤とする与野党の国会議員は喜びや評価を口にした。自民党議員の間からは条約の課題を指摘する声も出た。

 「被爆者が希望を捨てず努力したことが人類の光となった」と強調したのは公明党の斉藤鉄夫副代表(比例中国)。「わが国の非核三原則と条約の精神はほぼ一致する。条約に参加するべきだ」と条約に背を向ける政府に苦言を呈す。

 立憲民主党の森本真治氏(参院広島)は「世界は核兵器の全面廃絶に向け大きく近づくことになった」と評価。「唯一の戦争被爆国である日本が核廃絶の先頭に立つべきだ」と訴えた。

 一方で自民党議員の受け止めには違いが見えた。「条約が効力を持ったのは喜ばしい」と語ったのは、党の被爆者救済と核兵器廃絶推進議員連盟で代表世話人を務める寺田稔氏(広島5区)。「日本は米国など核保有国に核廃絶を訴えていくべきだ」とし、菅義偉首相が言葉を濁す締約国会議へのオブザーバー参加についても「将来ありうることだ」と期待を寄せる。

 核兵器廃絶をライフワークに掲げる元外相の岸田文雄前政調会長(広島1区)は「条約発効は意味がある」としながらも現実的な課題に目を向ける。「同盟を結ぶ米国をはじめ核保有国をどう動かすか」。米国のバイデン大統領がかねて「核なき世界」を訴えてきたことに触れ、「日米が信頼関係を深めることが第一歩だ」と述べた。(下久保聖司、桑原正敏、河野揚)

(2021年1月25日朝刊掲載)

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