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非核外交 問われる被爆国の姿勢 廃絶声明不賛同 論戦深まらず

 日本政府は、米国が提供する「核の傘」の下、核兵器の廃絶を訴える。しかし、矛盾を抱える非核外交をめぐる論戦は、尖閣諸島をめぐる中国との緊張や北朝鮮の核開発を受けた安全保障への関心の高まりを受け、参院選で低調だ。唯一の被爆国としての立ち位置を今後、どう取るのか。被爆地は問うている。(岡田浩平、門脇正樹)

 公示前日の3日、広島の被爆者7団体の代表者たちが広島市中区で会合を開いた。8月6日の平和記念式典後に開かれる政府代表への要望の場で何を直訴するか話し合った。広島県被団協の坪井直理事長(88)は「核兵器廃絶が世界の潮流だ」と強調し、厳しい口調で続けた。

準備委で発表

 「あの共同声明に被爆国が判を押さないということがあってはならない」

 坪井氏が言及したのは「核兵器の人道的影響に関する共同声明」である。2015年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議に向け、スイス・ジュネーブで4月下旬にあった第2回準備委員会で南アフリカが発表した。「いかなる状況下でも核が再び使用されないことが人類の生存に利益となる」と訴え、市民を殺し、街を破壊し、放射能で環境を汚染する核兵器の完全廃絶をうたう。

 賛同国は約80カ国に上った。日本は唯一の被爆国として賛同を要請された。しかし、「いかなる状況下でも」の文言の削除を求め、認められなかったため加わらなかった。

 日本の賛同見送りから2カ月余りの今月1日、外務省。核軍縮に熱心な非政府組織(NGO)のメンバーと同省担当者の意見交換会が開かれた。

 担当者「核抑止を否定する声明は受け入れられない」

 NGO「安全保障のため米国の核兵器使用も想定しているのか」

 担当者「核抑止を支持することは防衛大綱で決まっている。閣議決定した民意だ」

 共同声明をめぐる応酬の中で、「いかなる状況下でも」という表現がある以上は署名できないとの政府の姿勢は崩れなかった。

「何守るのか」

 「広島の体験から、核兵器はいかなる場合も使ってはならないと世界で思想化されている。日本は核兵器を使ってまで何を守るというのか」。出席した「核兵器廃絶をめざすヒロシマの会」の森滝春子共同代表(74)はいらだつ。

 安倍政権は防衛大綱の見直しを進めるが、安全保障政策の根幹をなす核抑止の是非をめぐる議論は表だってない。一方で、参院選では核軍縮について、公明党、みんなの党、生活の党、共産党、社民党、みどりの風の6党が公約で掲げる。民主、自民両党は公約にはなく、関連の政策集で推進を挙げている。日本維新の会は記していない。

 もう一つの広島県被団協(金子一士理事長)の佐久間邦彦副理事長(68)は4月のNPT準備委に合わせ、ジュネーブを訪問した。帰国後は、被爆体験とともに、世界に露呈した被爆国の矛盾を、広島を訪れた修学旅行生に伝えている。「政治家は、核兵器を二度と使ってはいけないという広島の思いを受け止め、真剣に議論してほしい」。被爆者の願いを代弁する。

(2013年7月10日朝刊掲載)

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