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「唯一の被爆国」 批准を 小頭症被爆者ら願い

 「知的障害のある小頭症被爆者たちは、自らの口で『核兵器の廃絶』とは言いません。しかし、その存在そのもので、核兵器の非人道性を訴えています」―。原爆小頭症被爆者と家族の会の「きのこ会」会長の長岡義夫さん(71)=広島市安佐南区=は、22日に発効した核兵器禁止条約について、こんなメッセージを発表して歓迎の意を示した。(水川恭輔)

 原爆小頭症は母親の胎内で被爆して強力な放射線を浴びたことで発症し、多くが知能と身体に障害がある。同会の小頭症被爆者の会員は現在15人。長岡さんの兄もその1人だ。

 会は生活支援を中心に据え、これまで政治的な要望で表に立つことは控えてきた。それでも禁止条約の発効は、亡き親の世代も強く願った核兵器廃絶への大きな一歩だとして「異例」の記者会見を広島市役所で開いた。

 メッセージでは「もし母親のおなかの中で被爆することさえなかったら、彼らはまったく別の人生を歩んでいたはずです」と訴えている。

 1945年8月6日、長岡さんの兄(74)は、爆心地から約900メートルの木造家屋にいた母の千鶴野さん(2003年に80歳で死去)の胎内で被爆。翌46年2月の出産時、体重はわずか千グラム程度だったという。

 長岡さんは現在、市内で1人で暮らす兄のもとに4日に一度、掃除と洗濯に通っている。

 「(兄は)今も簡単な計算すらできません。買い物ではどんな小さなものでも必ずお札を出します。お札を出せばお釣りが返ってくるからです。兄の財布は小銭でいっぱいですが、彼はそれを使うことはありません。小銭の使い方がわからないからです」

 「あるとき、兄は私に言いました。『わしが原爆にあわんかったら、どうなったと思う?』。私は答えに困りました」。メッセージには、兄とのやりとりもつづられている。

 長岡さんによると、会員の中には体調を崩して寝たきりや入院中の人、家族の支えを受けられない人もいる。厳しい現実に向き合う中、今の日本政府の姿勢に黙っていられなかったという。

 会見では「核兵器は放射線によっておなかの中の小さな命をも傷つける。『唯一の被爆国』と言う日本政府が条約に背を向けてどうするのか」と訴え、政府に署名、批准を求めた。

 小頭症被爆者の川下ヒロエさん(74)=東区=たちも会見に同席。会はこの日、メッセージを「要請文」として菅義偉首相と衆参両議院の議長に宛て送付した。

(2021年1月23日朝刊掲載)

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