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社説・コラム

天風録 『終末時計、残り100秒』

 新型コロナの陰で目立たないが、エイズウイルスも依然、世界中で猛威を振るう。ユニセフによると、おととしの1年で新たに感染した20歳未満の若者や子どもは約32万人に上った。100秒の間に1人の割合である▲核戦争や気候変動による人類滅亡までの残り時間を示す「終末時計」も、史上最短の「100秒」で針を止めたまま。核兵器禁止条約が発効し、米国の新政権は地球温暖化防止のパリ協定へ復帰する。ことし早々、そんな朗報が相次いだというのに▲コロナ禍への対応の誤りは、深刻な脅威への備えができていない表れ―。終末時計を掲載する米科学誌がアラーム音を響かせる。禁止条約に冷淡な被爆国政府にも聞こえていよう▲ユニセフのエイズ報告書もやはり強く警鐘を鳴らす。もともと中西部アフリカや中南米・カリブ海諸国では子どもたちの検査や治療が満足に行き渡っていない上、コロナ対応が優先されて状況はさらに悪化していると▲もし「コロナ収束時計」があったとしたら、大きく時を進める決め手はワクチンだろう。だが先進国の争奪戦が針を狂わせてしまいかねない。エイズ患者への支援とともに、地球上の隅々にあまねく届けたい。

(2021年1月29日朝刊掲載)

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