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2013参院選 被爆地 低調な9条論戦 専門家ら議論の深まり期待

 21日投開票の参院選で、戦争放棄をうたう憲法9条をめぐる論戦が被爆地・広島市を抱える広島選挙区(改選数2)で低調だ。共産党が改正反対を訴える一方、9条改正を改憲草案に明記する自民党や、自衛権に関し憲法改正を打ち出す日本維新の会は演説で言及せず、民主党、生活の党も取り上げない。各陣営は「有権者は経済政策に関心がある」とするものの、専門家や被爆者団体は「もっと議論するべきだ」と指摘する。(参院選取材班)

 9条に自衛権を明記し、自衛隊を国防軍に改称するよう改憲草案で示す自民党。ただ現職の溝手顕正氏(70)は「有権者の関心は経済政策に集まっている」と街頭演説などで憲法に触れない。「被爆地は9条改正に慎重な意見が多い」として訴えを見合わせている面もあるという。

 日本維新の会は公約に「自衛権に基づく自立した安全保障体制確立のため、憲法を改正する」と記す。新人の灰岡香奈氏(30)は演説でもっぱら「地方分権のため改憲が必要」と訴える。9条に触れないのは「集団的自衛権について議論の必要性を感じるが短時間では伝わらない」と話す。

 民主党新人の森本真治氏(40)は「有権者が改憲議論の必要性を感じていない」と、尋ねられたら見解を述べる対応にとどめる。党内は集団的自衛権の行使容認をめぐり賛否が分かれる。「党内でいろんな議論があるのは確か。個人的には平和主義を示す重要な条項なので堅持するべきだ」

 生活の党現職の佐藤公治氏(53)も質問されれば答えるとの立場。これまでに有権者から改憲について意見を聞かれたことはなく、経済政策や消費税増税ほどの関心はないとみる。9条については現行の条文を維持した上で、「自衛隊の存在を明記するべきだ」と加憲の立場を説明する。

 憲法を積極的に取り上げるのは共産党新人の皆川恵史氏(69)。「9条を守り、9条を生かした平和外交を」と訴える。「被爆地では憲法への意識が他県より高いが、参院選での関心は経済の方が高い」と分析。街頭演説では最初に経済問題に言及し、最後に憲法を取り上げるという。

 諸派で幸福実現党新人の日高順子氏(50)は改憲を演説の軸とする。「自衛隊を先制攻撃ができる軍隊に」と9条改正を主張する。

 本当に憲法への関心は低いのか。広島市中区の紀伊国屋書店広島店では6月、タイトルに憲法と付く本の売り上げが前年同月比で172%増。公示翌日の7月5日からは関連本を約20点並べるミニコーナーも設けた。順調な売れ行きという。

 広島大平和科学研究センターの上真一センター長は「与党が改憲を掲げており、選挙後に手続きが進む可能性もある。各党はうやむやにせず論議を深めるべきだ」と指摘する。広島県被団協(坪井直理事長)の箕牧智之事務局長も「被爆地でこそ9条の役割について話して」と求める。

(2013年7月12日朝刊掲載)

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