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社説・コラム

社説 ミャンマーでクーデター 民意踏みにじる暴挙だ

 ミャンマー国軍がきのうクーデターを起こし、与党国民民主連盟(NLD)を率いるアウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相らを拘束した。

 半世紀以上に及ぶ軍による統治に終止符を打った2015年の総選挙に続き、昨年11月の総選挙でNLDは圧勝した。国軍による政治支配を拒絶した、2度の民意を踏みにじる許されない暴挙である。

 軍政復活に対し、バイデン米政権など欧米各国や国連が相次いで非難の声を上げたのも当然だろう。このまま支持や理解が得られなければ、国際的な孤立は避けられない。

 日本政府は国際社会と足並みをそろえ、ミャンマーが民主主義の道に回帰するよう強く働きかけるべきだ。

 ミャンマーでは1962年のクーデター後、半世紀にわたって軍政が続いたが、2011年に民政移管を果たした。15年の開かれた選挙で、NLDが大勝。スー・チー氏が率いる政権が誕生した。

 ただ民主化への道のりは半ばだ。憲法規定で議席の4分の1が軍人に割り当てられるなど、国軍は政治的に大きな発言力を握ったままである。

 スー・チー氏が公約に掲げた軍と少数民族との和解や、軍人枠のような非民主的な内容を含む憲法の改正などに、ほとんど成果を挙げられなかった。期待が高かった分、失望も大きく、昨秋の総選挙では、NLDが議席を減らすとの予測が大半だった。

 ところがふたを開けてみれば、NLDは改選議席の8割以上を得て圧勝。前回より議席を増やし、単独政権を発足できることになった。一方、最大野党で国軍系の連邦団結発展党(USDP)は議席を減らし、少数派に転落した。

 民主化の進展は停滞しているものの、スー・チー氏の人気が依然として高いことを印象づけた。

 結果として、影響力の低下を恐れる軍の警戒感を高めることにつながったのだろう。総選挙で不正があったと主張し、「政治危機を克服するための介入」を示唆するなど、緊張が高まっていた。

 そして総選挙後初めての議会が招集され、新政権が発足する予定だったきのう、クーデターが起きた。国軍は非常事態宣言を発令し、1年間は直接統治を行うとしている。

 今回のクーデターの結果、軍に対する国民の嫌悪感は激しさを増すのは間違いない。欧米諸国との関係悪化も避けられず、経済制裁を科される懸念が強い。国軍が一線を越えてまで、何を得ようとしているのか分からない。

 同国は東南アジアでは2番目に大きい国土を有し、人口は5千万人を上回る。今後の経済発展の可能性から「アジア最後のフロンティア」と呼ばれ、日本を含む先進国の投資が相次ぐようになった。

 その潜在力も政治的な安定がなければ発揮できまい。現地に進出した日本企業への影響も避けられないだろう。

 日本政府は旧軍政時代、経済制裁を科す欧米とは一線を画し、国軍とNLDの双方にパイプを持ち、民主化を促してきた。それを生かし、危機打開に全力を挙げるべきだ。

(2021年2月2日朝刊掲載)

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