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社説・コラム

社説 中国「海警法」施行 不測の事態 防ぐ対処を

 中国で「海警法」が今月施行された。海上警備を担う海警局に対し、状況に応じて外国船への武器使用を認めることなどを明記している。

 軍事力を背景に海洋進出を図る中国が、沖縄県・尖閣諸島周辺や南シナ海での活動をさらに先鋭化させる可能性が強い。偶発的な衝突などが起きるリスクも高まるのではないか。

 日本政府はあらゆる事態を想定しながら対応策を検討する必要がある。

 海警は、日本の海上保安庁に相当する組織で2013年に発足した。当初は行政機関だったが、18年に軍の指揮下にある武装警察に編入され、軍との一体化が進む。

 海警法は、これまで明確でなかった海警の任務内容や権限などを規定する。法的にも準軍事組織として位置づけた。

 海上で中国の主権や管轄権を侵害した外国の組織、個人に対し、「武器の使用を含むあらゆる必要な措置」を取ることができると明記する。尖閣諸島周辺の日本領海で警備に当たる海保の船舶や日本の漁船も対象とされる懸念が強い。

 国連海洋法条約で定められた中国の領海や接続水域よりも広い「管轄海域」と、その上空にも権限が及ぶと定める。そこで航行する外国船を識別し違法行為があれば追跡し、臨検が実施できるとした。

 昨年、中国公船が尖閣諸島周辺の接続海域で確認されたのは過去最多の333日に上った。日本漁船が中国公船の追跡を受ける事態も度々起きている。

 昨年10月には日本領海への連続侵入時間が57時間を超え、最長を記録した。法施行をにらんだ動きだった可能性が高い。中国が海洋進出の現場でみせる強硬な行動を既成事実化しようとする狙いが透ける。

 今後、中国が尖閣諸島周辺で管轄権をアピールする可能性がある。日本漁船が臨検されたり海保の巡視船が排除されたりするケースも想定し、日本政府は細心の注意を払う必要がある。

 権限の範囲を「管轄海域」と曖昧な表現にしていることも見過ごせない。

 中国は南シナ海の南沙諸島で埋め立てを強行してきた。中国は南シナ海の大半を囲む「九段線」内の権益を主張するが、国際仲裁裁判所は16年に国連海洋法条約上の根拠がないとし、埋め立ての違法性を認定した。

 拘束力を持つ国際司法の判決を中国は拒み続けている。南シナ海における一方的な主張を、「管轄海域」という国内法の独自解釈で正当化しようとするなら、国際的な批判がさらに強まるはずだ。

 中国外務省は、海警法について「国際法と国際慣例に合致している」と主張する。だが管轄区域の曖昧な範囲や外国公船に対する強制措置を認める規定は、国際ルールを逸脱していると指摘する声は強い。

 国際法に基づく海洋秩序を揺るがしかねない現実を日本政府は国際社会に訴え、中国に強く自制を求めるべきだ。

 菅義偉首相はバイデン米大統領との電話協議で尖閣諸島が日米安保条約の適用対象だとあらためて確認した。ただ圧力に頼むだけでは限界がある。不測の事態を避けるために、日中間のさまざまなレベルで対話のチャンネルを設けておきたい。

(2021年2月7日朝刊掲載)

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