×

ニュース

米軍機騒音 暮らし直撃 急増の島根西部 授業中断 会議支障 泣き出す園児

 島根県西部で米軍機によるとみられる騒音が6年ぶりに急増し、地元住民や市町に危機感が高まっている。浜田市旭町に防衛省が置く測定器で昨年10月、「騒々しい街頭」に相当する70デシベル以上が185回に上り、2014年度以来の深刻な水準に近づいた。学校の授業を中断するなど暮らしに支障が出るが、急増の原因も米軍の対応も詳細をつかめていない。(下高充生)

 「昨年秋、明らかに回数が増えた」。20代から自宅周辺を飛ぶ米軍機を撮影してきた浜田市旭町のカメラマン島津弘幸さん(60)は異変を指摘する。「空がうなる感覚。家の中でも身をすくめる時がある」と嘆く。

 中国四国防衛局が公開する旭町のデータによると、70デシベルを超えた騒音は、昨年10月に185回を記録。このうち96回が27日の1日に集中した。同11月は152回。公開を始めた13年9月以降、月ごとの集計で過去最多だった14年10月の218回に次ぐ水準となった。

ガード下に相当

 旭町の旭小では昨年11月17日、学習発表会の最中に爆音が響き、声が全く聞こえなくなって2度中断した。測定値は「電車が通る時のガード下」にあたる100デシベル超の最大104・6デシベル。9月は運動会の練習が一時中断したという。市には学校や市民から「中間テストで集中できなかった」「会議で発言者の声が聞こえない」などと声が届く。

 県や町などが置く測定器でも昨年、70デシベルを超えた騒音は江津市桜江町で前年比1・6倍の475回、邑南町で同1・7倍の347回と、多くの地点で増えた。

 江津市桜江町のさくらえ保育園では、外遊びや昼寝の最中に上空を米軍機が通り過ぎる。0~6歳の園児44人が通うが、保育士にしがみついて怖がったり、起きて泣き出したりするという。伊達裕子園長は「大切な子どもを預かっているので万が一の事故も怖い。せめて事前にいつ飛ぶか分かれば、小さい子の外遊びはやめるなどの対策も取れるが…」と悩ましげだ。

要望に返事なし

 しかし、なぜまた騒音が急増したのか。地元に情報は届かない。今年1月、県西部5市町でつくる米軍機騒音等対策協議会の総会でも原因は示されなかった。浜田市の久保田章市市長は「明確な情報がない」と話す。協議会は13年から防衛省と外務省に低空飛行訓練を中止させるよう求めるが、「(要望が)米軍にどう伝わってどう回答がきたのか(返事が)ない。住民に説明責任を果たせない」(石橋良治・邑南町長)など厳しい意見が続出した。

 岩国基地は、旭町から直線距離で約80キロ南。18年3月、厚木基地(神奈川県)から空母艦載機約60機の移転が完了し、所属する米軍機は倍増した。今回の騒音の増加について、基地報道部は保安上の理由で運用の詳細は明かしていない。

 米軍機を監視する「米軍機の低空飛行と飛行騒音の即時中止を求める島根石東連絡会」事務局の井上義信さん(82)=邑南町=は「同じような低空飛行、騒音が米国内の人家の上で許されるのか。住民の声が本当の意味で届く仕組みが必要だ」と訴える。

米軍機によるとみられる島根県西部の騒音

 島根県西部は米軍の訓練空域「エリア567」に入る。県や市町などが13カ所に置いた騒音測定器で、2020年に70デシベル以上を記録したのは観測開始の13年以来2番目に多い1245回だった。防衛省の測定器は県内に5カ所。浜田市旭町では14年度に884回記録した後は減っていたが、19年度に増加に転じ、20年度は12月時点で587回と急増。既に過去2番目に多くなった。益田市匹見町でも同様に急増した。

(2021年2月8日朝刊掲載)

年別アーカイブ