都心再開発・核廃絶に力 広島市21年度予算案 コロナ禍 財源確保が課題
21年2月9日
広島市が8日に発表した2021年度当初予算案は、都心の再開発を着実に進める一方、周辺地域のにぎわい創出にも目配りする内容となった。核兵器禁止条約の発効を踏まえ、条約の意義や核兵器廃絶を訴える施策も充実させる。一般会計は6837億2400万円と過去最大。サッカースタジアム建設やJR広島駅南口の再整備などの大型事業が本格化する。新型コロナウイルスへの対応も迫られる中、財源の確保などが課題となる。(新山創、水川恭輔、猪股修平)
サカスタ設計に着手
新型コロナ禍でも、市中心部のにぎわいを生む大型事業を着実に進める。新サッカースタジアムやJR広島駅南口広場などの設計や建設が本格化。周辺部や島しょ部では地域資源を生かしたまちづくりを進める。
24年開業を目標に造る3万人収容の新サッカースタジアムは、関連事業費に20年度の10倍の54億3千万円を計上した。設計と施工を担う事業者を3月に決め、スタジアム本体や周囲の広場エリア、歩行者専用橋の設計に入る。一部は着工する。
旧市民球場跡地で計画するイベント広場の整備には6億600万円を充てる。屋根のあるオープンスペースや飲食物販施設を整える予定で、23年3月の開業に向けて設計を始める。
主要な交通拠点も機能の充実を図る。駅ビルの建て替えが進む広島駅南口では、ビル2階に乗り入れる路面電車の高架を支える基礎工事に入る。21年度の関連費用は13億2300万円を見込む。
JR西広島駅前(西区)では、線路をまたぐ橋上駅舎と南北をつなぐ自由通路を建設中で、21年度末に暫定的な利用が始まる。駅南口ではタクシーやバスの乗り場も再整備を開始。同駅まで延伸計画があるアストラムラインの路線の測量と地質調査の予算も付ける。JR下祇園駅(安佐南区)でも東西を結ぶ自由通路の整備を進める。
自転車を生かしたまちづくりでは、安佐北区の太田川沿いにある自転車用の「かわなみサイクリングロード」に休憩のためのサイクルスポットを設ける。佐伯区湯来町では、温泉施設に自転車を置くラックを設置し、サイクリングの発着拠点とする計画を策定する。離島の似島(南区)でもサイクルイベントを開く。
核禁条約の意義 国内外へ
1月22日に発効した核兵器禁止条約の意義を広島から国内外に発信する。「平和文化」の振興にも力を入れ、核兵器廃絶に向けた市民社会の機運を高める。
禁止条約の第1回締約国会議への松井一実市長の出席を想定し出張費を計上した。会議はオーストリアの首都ウィーンで今年末にも開かれる見通し。松井市長は、条約を生かして核兵器廃絶を目指す市民社会の総意の形成と核抑止政策からの解放を進めることなどを訴えたいとしている。
市は、核兵器保有国が核拡散防止条約(NPT)で定められた核軍縮義務を実行するためにも禁止条約は重要との立場。新型コロナの影響で延期が続き、8月に開催予定のNPT再検討会議でも市の考えを発信するため、米ニューヨークの国連本部への出張費も盛り込んだ。
5月には市民の理解を深めようと、禁止条約の意義や課題を発信するシンポジウムを開く。1年の延期で8月に開く平和首長会議(会長・松井市長)の総会は広島国際会議場(中区)などを会場とし、関連経費に約4千万円を計上した。20年までの核兵器廃絶を掲げて03年に示した「2020ビジョン」に代わる新たなビジョンや行動計画を策定する。
次期ビジョンでは、目標の一つに「平和文化の振興」を掲げる予定。21年度から毎年11月を「平和文化月間」と定めて平和コンサートなどを行う。
被爆75年を迎えた20年度に被爆実態を伝える事業として計画したものの、新型コロナの影響で延期された事業も再び計上した。東京五輪・パラリンピック関連では、会期中に東京都文京区など計3カ所で原爆展を開く。平和記念公園(中区)の地下に残る旧中島地区の被爆遺構の展示施設は22年3月の公開を目指す。
不妊治療助成 引き上げ
高齢化が進む中、介護従事者の育成と就労を一体的に支援する。「要支援1、2」のお年寄りたちの家事を助ける「生活援助員」の認定に際し、研修会の受講料の全額1万円を助成する。援助員は市独自の制度で、市が公募する業者などが研修会を開き、就職先の紹介や就業後のカウンセリングも担う。
国の制度変更に合わせ、不妊治療の助成上限は15万円から30万円に引き上げる。所得制限をなくし、事実婚の夫婦も対象に加える。流産や死産を繰り返す不育症の患者向けには、保険適用外の検査費用を1回当たり5万円を上限に助成する。
高齢者の見守りや子育てサポートなど地域の支え合い活動も支援する。小学校区ごとにある地区社会協議会と住民団体が連携して取り組む事業に助成するため、市社協の新基金に積む8500万円を計上した。
ハード面では、建て替えを進めている児童相談所や市こども療育センター(東区)が入る建物の工事本格化に伴い、20年度の4倍強の32億6500万円を投じる。
新型コロナ対策には3億3300万円を計上。国の制度変更に合わせ、感染者が出た介護サービス事業者の事業継続を支援する。学校内の消毒などに当たるスクール・サポート・スタッフを市立の幼稚園や学校に配置する。
広島城の魅力アップへ
隔年開催してきた広島国際アニメーションフェスティバルの一部を引き継ぎ、音楽とメディア芸術を柱とした総合文化芸術イベントを22年度に開く。21年度はプレイベントの開催費などに3700万円を計上し、本番に向けたPRや機運を盛り上げる催しを予定する。
広島城(中区)の魅力を高める施策も進める。天守閣は耐震改修するか木造復元するかを引き続き検討。石垣の損傷箇所を3Dデータで調査する。三の丸では土産店、飲食店などにぎわい施設の整備計画を作り、業者の選定に入る。城の南東側にある中央バレーボール場には観光バスの駐車場を整備する。
昨年12月から2年3カ月の休館に入った市現代美術館(南区)では、4億3700万円を掛けて大規模改修を続ける。15年ぶりに新たな展示品を購入する。
効率的な行政組織を目指し、デジタル化も加速。最新技術で課題解決や業務モデルを変革するデジタルトランスフォーメーション(DX)を全庁的に進める計画を策定する。市と周辺の23市町の人口や公共施設などの統計データを集約したポータルサイトも開設。市民たちがインターネットを通じて効率的に情報を入手できる環境を整える。
(2021年2月9日朝刊掲載)
活力あるまちづくり
サカスタ設計に着手
新型コロナ禍でも、市中心部のにぎわいを生む大型事業を着実に進める。新サッカースタジアムやJR広島駅南口広場などの設計や建設が本格化。周辺部や島しょ部では地域資源を生かしたまちづくりを進める。
24年開業を目標に造る3万人収容の新サッカースタジアムは、関連事業費に20年度の10倍の54億3千万円を計上した。設計と施工を担う事業者を3月に決め、スタジアム本体や周囲の広場エリア、歩行者専用橋の設計に入る。一部は着工する。
旧市民球場跡地で計画するイベント広場の整備には6億600万円を充てる。屋根のあるオープンスペースや飲食物販施設を整える予定で、23年3月の開業に向けて設計を始める。
主要な交通拠点も機能の充実を図る。駅ビルの建て替えが進む広島駅南口では、ビル2階に乗り入れる路面電車の高架を支える基礎工事に入る。21年度の関連費用は13億2300万円を見込む。
JR西広島駅前(西区)では、線路をまたぐ橋上駅舎と南北をつなぐ自由通路を建設中で、21年度末に暫定的な利用が始まる。駅南口ではタクシーやバスの乗り場も再整備を開始。同駅まで延伸計画があるアストラムラインの路線の測量と地質調査の予算も付ける。JR下祇園駅(安佐南区)でも東西を結ぶ自由通路の整備を進める。
自転車を生かしたまちづくりでは、安佐北区の太田川沿いにある自転車用の「かわなみサイクリングロード」に休憩のためのサイクルスポットを設ける。佐伯区湯来町では、温泉施設に自転車を置くラックを設置し、サイクリングの発着拠点とする計画を策定する。離島の似島(南区)でもサイクルイベントを開く。
平和の発信
核禁条約の意義 国内外へ
1月22日に発効した核兵器禁止条約の意義を広島から国内外に発信する。「平和文化」の振興にも力を入れ、核兵器廃絶に向けた市民社会の機運を高める。
禁止条約の第1回締約国会議への松井一実市長の出席を想定し出張費を計上した。会議はオーストリアの首都ウィーンで今年末にも開かれる見通し。松井市長は、条約を生かして核兵器廃絶を目指す市民社会の総意の形成と核抑止政策からの解放を進めることなどを訴えたいとしている。
市は、核兵器保有国が核拡散防止条約(NPT)で定められた核軍縮義務を実行するためにも禁止条約は重要との立場。新型コロナの影響で延期が続き、8月に開催予定のNPT再検討会議でも市の考えを発信するため、米ニューヨークの国連本部への出張費も盛り込んだ。
5月には市民の理解を深めようと、禁止条約の意義や課題を発信するシンポジウムを開く。1年の延期で8月に開く平和首長会議(会長・松井市長)の総会は広島国際会議場(中区)などを会場とし、関連経費に約4千万円を計上した。20年までの核兵器廃絶を掲げて03年に示した「2020ビジョン」に代わる新たなビジョンや行動計画を策定する。
次期ビジョンでは、目標の一つに「平和文化の振興」を掲げる予定。21年度から毎年11月を「平和文化月間」と定めて平和コンサートなどを行う。
被爆75年を迎えた20年度に被爆実態を伝える事業として計画したものの、新型コロナの影響で延期された事業も再び計上した。東京五輪・パラリンピック関連では、会期中に東京都文京区など計3カ所で原爆展を開く。平和記念公園(中区)の地下に残る旧中島地区の被爆遺構の展示施設は22年3月の公開を目指す。
医療福祉・教育
不妊治療助成 引き上げ
高齢化が進む中、介護従事者の育成と就労を一体的に支援する。「要支援1、2」のお年寄りたちの家事を助ける「生活援助員」の認定に際し、研修会の受講料の全額1万円を助成する。援助員は市独自の制度で、市が公募する業者などが研修会を開き、就職先の紹介や就業後のカウンセリングも担う。
国の制度変更に合わせ、不妊治療の助成上限は15万円から30万円に引き上げる。所得制限をなくし、事実婚の夫婦も対象に加える。流産や死産を繰り返す不育症の患者向けには、保険適用外の検査費用を1回当たり5万円を上限に助成する。
高齢者の見守りや子育てサポートなど地域の支え合い活動も支援する。小学校区ごとにある地区社会協議会と住民団体が連携して取り組む事業に助成するため、市社協の新基金に積む8500万円を計上した。
ハード面では、建て替えを進めている児童相談所や市こども療育センター(東区)が入る建物の工事本格化に伴い、20年度の4倍強の32億6500万円を投じる。
新型コロナ対策には3億3300万円を計上。国の制度変更に合わせ、感染者が出た介護サービス事業者の事業継続を支援する。学校内の消毒などに当たるスクール・サポート・スタッフを市立の幼稚園や学校に配置する。
文化振興・デジタル化
広島城の魅力アップへ
隔年開催してきた広島国際アニメーションフェスティバルの一部を引き継ぎ、音楽とメディア芸術を柱とした総合文化芸術イベントを22年度に開く。21年度はプレイベントの開催費などに3700万円を計上し、本番に向けたPRや機運を盛り上げる催しを予定する。
広島城(中区)の魅力を高める施策も進める。天守閣は耐震改修するか木造復元するかを引き続き検討。石垣の損傷箇所を3Dデータで調査する。三の丸では土産店、飲食店などにぎわい施設の整備計画を作り、業者の選定に入る。城の南東側にある中央バレーボール場には観光バスの駐車場を整備する。
昨年12月から2年3カ月の休館に入った市現代美術館(南区)では、4億3700万円を掛けて大規模改修を続ける。15年ぶりに新たな展示品を購入する。
効率的な行政組織を目指し、デジタル化も加速。最新技術で課題解決や業務モデルを変革するデジタルトランスフォーメーション(DX)を全庁的に進める計画を策定する。市と周辺の23市町の人口や公共施設などの統計データを集約したポータルサイトも開設。市民たちがインターネットを通じて効率的に情報を入手できる環境を整える。
(2021年2月9日朝刊掲載)