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社説・コラム

『美術散歩』 炭で問う 平和と未来

◎福長弘志展―墟(あと) 3月8日まで。安芸高田市八千代町、八千代の丘美術館

 二紀会広島支部長を務める福長弘志さん(63)=広島市安佐南区=の歩みを振り返る企画展。炭をモチーフとした現在のシリーズに至るまでの変遷を25点でたどる。

 黒が初めて印象的な役割を果たす「情景」(1984年)は、20代の作。79年の米スリーマイルアイランド原発事故を画題とし、死の世界を意味する黒い草原が少女に迫る。その後は原爆ドームの壁や、ナチスによる大虐殺があったフランス・オラドゥールの廃虚を描いていく。

 親類から被爆体験を聞いて育った福長さん。ヒロシマや平和を表すモチーフを探すうち、炭にたどり着いた。近年の「墟」シリーズは、黒々と積み重なる炭が、戦争でできた廃虚を思わせる。

 「いつか生まれるかもしれない後世の廃虚。戦争や核兵器の脅威は過去のものではない」と語る。廃虚の隙間からは空がのぞく。晴れでも雨でもない空は、希望にも絶望にも変えられる未来を示唆する。(福田彩乃)

(2021年2月10日朝刊掲載)

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